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『喧嘩百景』第12話成瀬薫VS碧嶋真琴

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 薫は今の真琴の動きと彼が記憶している真琴の太刀筋の差に驚いた。伸び盛りにもほどがある。
 「征四郎、ケガする前に止めろって」
 薫は真琴が振り回す木刀を避けながら彼女の後ろに控える征四郎に声を掛けた。
 お前は真琴にこういう無茶をさせないためにいるんじゃないのか。目で訴える。
 この少女はこの一振り一振りの間にも着実に伸びている。薫にはその伸びに自分の力を上手く合わせてやれる自信がなかった。見積もりを誤ればケガをさせてしまう。
 「先輩、手加減は無用!!私をしかと御覧下さい!!」
 この人はまったく本気ではない。
 真琴本人どころか真琴が振り回している得物さえろくに見もしないで相手をしているのだ。ただの相手なら烈火の如く怒るところだが、成瀬薫という人の人となりとその実力は、姉の美希とその親友の不知火羅牙(しらぬいらいが)からよくよく聞かされている。
 それに。
 ――私もいつまでも子供ではない。己の未熟は良く承知しているつもりだ。
 それでも。
 ――見てさえもらえないとは。
 「征四郎、真琴ちゃんをこんなことに巻き込むなよ」
 薫はひょいと木刀を掴んで動きを止めさせた。
 「先輩!!」
 真琴は柄を握ったまま身を屈め薫の足下へ潜り込んだ。足を伸ばして薫の足を払う。同時に薫が掴んだままの木刀を両手で引き寄せる。薫はすぐにそれを手放したが、真琴は引き寄せた勢いのままそれを薫の股間に振り上げた。木刀の背に手を添え力を込める。
 真琴の動きは踊るようだった。
 くるりくるりと身体を返し小さな身体に不足している力を遠心力で補っている。
 「先輩、榊征四郎は関係ありませぬ。私が先輩のお役に立ちたいのです」
 真琴は薫が膝で止めた木刀の柄を握り直して引き抜いた。むろんその勢いでまた打ち掛かる。
 ――速いなあ。
 体格から言って、真琴が踏み込む一歩は薫が退く一歩よりも狭いはずだったが、背を向けて全力で逃げでもしない限り彼女から離れることはできそうになかった。
 離れない限りいつか捉まる。
 とりあえず木刀だけでも取り上げて――。
 薫は木刀を掴んで真琴の手元に手刀を振り下ろした。
 ――!!
 その薫の手を、今まで黙って見ていた征四郎が割って入って受け止めた。
 「征四郎――出てくるとこ今じゃないだろ」