『喧嘩百景』第12話成瀬薫VS碧嶋真琴
薫は背の高い征四郎を恨めしそうに見上げた。
「手加減は無用です。真琴さんには俺が指一本触れさせませんから」
「お前ねえ」
「済みません、成瀬さん。俺もあなたには味方しかねますので」
征四郎は申し訳なさそうに笑った。
――たく、どいつもこいつも。
「俺を止められないとは思わないのかね」
薫はため息をついた。
「止めますよ、真琴さんに危害を及ぼすようなら。誰であろうと何であろうと命懸けでね」
ちくりと胸を刺す言葉。
ああ。
それであいつら真琴ちゃんをけしかけたのか。
「私だとてすぐに先輩方に追いついて御覧に入れます」
素直で誠実で懸命な。
真っ直ぐな視線が息を詰まらせる。
「何でかなあ」
――もう俺のことは忘れてほしいよ。
薫は泣きたい気持ちで空を見上げた。
作品名:『喧嘩百景』第12話成瀬薫VS碧嶋真琴 作家名:井沢さと