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ボクのみち

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カレは、軽やかでスムーズな足取りで人工芝生の敷かれた床に挟まれたタイルの路を歩いていた。

カレの無表情な顔が、時折変化をみせる。笑う。眉をひそめる。僅かな弛緩と緊張を繰り返す口元の肌には 数本ずつの糸状のものが付いていた。瞳の色は深いグリーン色をしている。穏やかな可愛い瞳だ。

カレの向かう先は、カレの飼い主だったひとの永眠る場所。整然と並んだ箱庭のようなマスが、飼い主が永眠るお墓。そこへと続く路を カレは ただ歩く。


カレの容姿は手足というのではなく、その四肢は、脊椎動物の二対のあし。そう、前足と後ろ足呼ぶほうが適当であろうロボット犬。
カレのご先祖さまというべき犬型ロボットは、多くの買い主である飼い主によって長きにわたり愛され続け、その開発は愛情を湧かせるには十分なほどの性能を有してきた。

そして……

カレがその性能をどれくらい超越しているかのデータを記したものは公表されていないし、同機種がどれくらい出回っているのかさえも 定かではない。
ただ 愛くるしいその姿に誰しもが 生命を感じてしまうに違いない。

カレのふりふりと振るシッポは、人工毛を施した見せかけのもの。ボディを覆った体毛は、七分刈りもしくは五枚刈り強、日常的には云えば、十五ミリメートルの長さに切り揃えられいて その毛は 抜け落ちることも伸びることもない。
以前の機種ならば背中に配置されていただろう設定ボタンはカレにはないし、顔の前で点滅するシグナルもない。もちろんコードも付いていない。

アンドロイド……

いや、それよりも進化系である存在感や伝達能力まで持つロボット。犬型のジェミノイドというのが正しいだろうか。いずれにしてもカレは 飼い主にとって特別な存在になっていったのは間違いない。

しかし……

此処まで進化したカレの製造者は不明であるにもかかわらず、膨大な資料とパーツが用意されており、この墓で眠る飼い主がそれを所有していたことは謎のままである。

作品名:ボクのみち 作家名:甜茶