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プリズンマンション

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 当然だが侵入をする姿をとらえた映像データは無いので侵入場所ここしかない。
 目的は空き巣だ。マンション一階北側の一番端にある二一○号室が被害にあった。居住者は都鳥元樹。

 もちろんその筋の業界人で○○会○○組の現役組長だ。

 都鳥元樹の話では家族で外食に出ていて、部屋のドアの鍵を閉め忘れて被害にあったのだ。
 緊急に理事長と防犯担当理事の二○六号室住人の寺津間次に被害者の都鳥が加わって会合が行われた。

 寺津間次は○○組系○○商事の現役幹部組員。アメリカの某有名大学出身とちょっと変わった経歴の業界人だ。表向きは○○商事とその筋の代紋はあげていないが、株式会社を隠れ蓑にした経済ヤクザ集団だ。

「やっぱり警察はまずいよ理事長さん」
 被害者の都鳥元樹は表だって被害届を出して警察沙汰にしたくない。恥をさらして業界で笑い者になるだけだからだ。
「そうですか、それなら警察に届けを出すのは止めましょう」
 理事長の神戸はあっさり了承した。被害届を出せば警察をマンション内に入れて捜査させる事になり、それは避けたい。
「でもこのままと言うことは後々良くないですよ」
 都鳥は防犯担当理事長としてこのままで済ましては、以後防犯上でも問題だ。被害にあっても警察は介入しないと窃盗業界に広まるとターゲットになる恐れもある。それにマンション自体のブランド価値にもマイナスだ。
「どうしますか」
「手はあります、先ずは防犯カメラのデータを調べてみますよ」
 都鳥は過去の防犯映像データをチェックして、犯人に結び付く物を探す事にした。
 しかし、犯行当日のデータには犯人を捉えたものは無かったと、都鳥から理事長の神戸に報告があった。
 わざわざ挑んできた犯人だけに簡単に尻尾を掴ませる筈はなかった。それは折り込み済みで寺津は落胆はしなかった。
 犯人は自信があって挑んできた。そこに犯人の油断がある筈だと寺津は考えていた。
 数日後、都鳥から犯人らしい人物を見つけ出したと報告があった。再び関係者が集まった。
「どんなやつだい、寺津さん」
「それにしても、よく見つけましたね」
「私らにはチンプンカンプンだが寺津さんは専門家だ。さすがだよ」
 寺津間次は経済ヤクザでもパソコンなどITを駆使して稼ぐ、最先端を行く有名業界人だ。
 寺津は犯行日より前のデータを自分が開発した分析ソフトを使ってマンションの周りを徘徊する人物を分析。顔認識ソフトで怪しい対象者をピックアップ。いくら有能な奴でも侵入するには何回かマンションを下見する必要がある。必ず犯人も何度か下見に来ている筈だ。
 数人に絞り込み、対象者を警視庁のデータベースに不法侵入し犯罪者データと犯人対象者を照合した。
「ばっちりビンゴでした、犯人の名前は鼠次郎。業界じゃ有名人ですよ」
 寺津は警視庁データベースから失敬した一枚の顔写真を机の上に出した。更に数枚マンション防犯カメラデータ中からプリントアウトした犯人の写真を机に並べた。
「みんな別人に見えるな」
 写真の男は服装がそれぞれ違うし、帽子やメガネで変装していて素人目には別人した見えない。
 それが犯人の落とし穴だった。
 犯人は防犯カメラで写されている事を承知し、通行人を演じてわざと変装の顔をさらしていた。
「いくら変装しても私の顔認識ソフトで一発ですよ」
「凄いですね」
「空き巣犯は、この野郎か。さすがに寺津さんだ」
 都鳥は男の写真を憎らしそうに指でデコピンを食らわした。
「これが犯人のプロフィールデータです」
 寺津は鼠次郎のデータを理事長に渡した。
「こいつの落とし前は都鳥さんにお任せします」
 データを受け取った都鳥元樹は意味ありげにニヤリと笑った。

 警視庁の長谷川刑事が言っていたキナ臭い火種がマンションにやって来た。それは臨時総会の三日前だ。
「すいません○○不動産です。三○九号室をお客様にお見せしますのでお邪魔します」
 男が管理員室の小窓を覗き込んだ。その筋専門の不動産屋が客様を案内してマンションにやって来た。マンションは記録上は満室なのだが、一室だけ部屋のオーナーが刑務所に入っていて長期不在になっていた。
 その三一二号室のオーナーが刑期中に急死した。それに伴いオーナーの家族も、マンションから引越したので空部屋になっていた。
「やっぱり売りに出されたのですか三一二号室」
「えっ、ええー。まだ正式に売り出すと決まった訳じゃないんですけどね・・・お客様が部屋を見たいと言う事で事務所の方へいらっしゃいましてね、それで今日は特別にご案内したのです」
 不動産屋は、何だか歯に引っ掛かった様な返事をした。話の具合からその客が突然やって来て無理矢理部屋の下見を望んできた様だ。
 管理をオーナーから委託されている不動産屋が同行いるので断る理由はない。
「よっ、管理員さん久しぶりだね」
 不動産屋の背中越しに聞き覚えのある声がした。
「あんた?・・・」
 不動産屋を押し退けて現れた男の顔を見て、すぐには思いだせなった。
(・・・そうだ!)
 男の名前が胃液が逆流し来た様な感覚と伴に思い出した。
「あんたは確か」
「久しぶりだね、思いだしてくれたかい管理員さんよ」
 男は、あの夜逃げの様にしていなくなった二○八号室の元住人の飯岡助二だった。管理員室の小窓を覗いた飯岡の衿元には、以前と違う関東ではまだ見慣れない代紋の金バッチがピカピカと誇らしげに光らせていた。
「あんたが部屋を買うのかい」
「馬鹿言うんじゃねーよ・・・うちの組長だよ。俺は組長をご案内して来ただけだ・・・組長どうぞ」
 飯岡の後ろに小太りの男が立っていた。
「ご苦労さん、お邪魔しまっせ」

 飯岡が組長と呼んだ関西弁の男は穴生徳英吉。西で武闘派で知られる○○組系○○組の現役組長だ。
 穴生徳の組は西から東に進出を目論んでいる○○組傘下の組で、穴生徳はその東進出の為に送り込まれた行動隊だ。
「それではご案内します」
 不動産屋は入口のオートドアを鍵で開けて穴生徳と飯岡を招き入れた。
「三一二号室だったな、親分こちらです」
 飯岡は先にたって廊下を走ってエレベーターのボタンを押した。
「あんさん、ここに住んどったんやな」
「へい、このマンションの事なら隅から隅まで知っています」
「さよか、それはよろし。そりゃ結構なこっちゃ」
 穴生徳達はエレベーターに乗り上がっていった。
 穴生徳がこのマンションに来たと言う事は、○○組関東進出のターゲットのひとつになっている事だった。
 日が暮れて臨時総会がエントランスホールで開催された。
 始めに第一議案の組合役員の補充議案である丹波屋伝三の顧問就任が討議され了承された。
「次にお知らせした第二議案の新規入居希望者ついて、項目を規約に付け加える案件を討議したいと思います」
 理事長の神戸は総会での本題である○○組穴生徳の入居を食い止める為の対抗策を議題に上げた。
 神戸はこの議題もすんなりと可決されると思っていた。
「この規約はよ、部屋が自由に売買出来なくなると言う事になるんじゃないのかね」
 突然思いもよらぬ住その発言に、神戸は唖然とした。
 発言者が福理事長の松浦長助だったからだ。
作品名:プリズンマンション 作家名:修大