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このホテリアにこの銃を (上)

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10 誕生日



(1)

見覚えのある
箱や包みや紙袋
ひとつ残らず
山と抱えて
よたよたと
現れるなり

誕生日の主役が
開口一番
「ごめんなさい」

忘れもしない

「私になんか
似合いもしないし
着る機会もない
無駄になるから
返品しなきゃ」と

全部
自分のせいにした
でも
譲る気配も
なさそうだった

気に入ったのを
着ておいでと
電話で
念を押したけど

目の前の君が
今まとってる
つつましやかな
淡いピンクの
ワンピース

贈った覚えは
もちろんなかった

君が喜ぶ
顔見たさに
手当たり次第
買って届けた
服もバッグも
帽子も靴も
物の見事に
お払い箱で

「女物を
返してくれても
手に余る
今回だけは
目をつぶって」と

愚にもつかない
哀願が
最初で最後の
僕の抵抗

「ただやみくもに
値の張るものを
買ったって
いい贈り物とは
限らない」

おもねることを
知らない君は
間髪いれずに
一刀両断

「その代わり
美味しいお店に
連れてって
寝坊して
お昼も
食べ損なっちゃった」

うってかわって
駄々っ子みたいに
つけ足した
その満面の
笑みを見てたら

開き直りも
言い訳も
もうこれ以上は
どだい無理
する気も失せた

人への好意を
こんなにあっさり
袖にされ
面と向かって
小言まで食らった
この僕が

二の句も継げずに
苦笑して
参りましたと
心の中で
つぶやいた

服やバッグを
返品に行く
気恥ずかしさに
耐えてみるかと
観念もした

とどのつまりは
金に飽かせた
無駄づかいだと
非難されたに
等しいのに

屈辱に
唇をかむ
暇さえなかった

ばつの悪さも
腹立たしさも
感じる暇さえ
くれなかった

筋は筋として
凛として
曲げないくせに

目にも止まらぬ
速さで君は
先手を打って
僕の心が
被る痛手に
そっと寄り添って
くれたから

臆面もなく
甘えて立てて
僕の無骨な
自尊心を
かばい通して
くれたから

あっぱれ君は
僕の幼稚な
非を諭し
逆恨みする
すきも与えず
見事に
白旗上げさせた

赤子の手でも
ひねるみたいに
何の苦もなく
あっという間に


(2)

最後まで
遠慮がちでは
あったけど

清楚な君の
胸元に
どうにか
居場所を得た
プラチナ

思ったとおり
本当によく
似合ってた

「高かったでしょ」と
本気で眉間に
しわ寄せるから

「領収書
何ならいっしょに
あげようか?」

いじらしくて
口がすべって
困らせた

せめて今日は
ネックレスだけでも
受け取って
もらえたと
感謝しないと
罰が当たるね

付き合った女性は?と
君に訊かれて
1人もいないと
即答するほど

僕にしては珍しく
饒舌な夜だった

何思ったか
その僕の目を
ひたと見据えて
やおら
吐露してくれたのは

君曰く
失恋の痛手

女の口から
プロポーズして
3年待って
もらった返事が
“友達”だったと

淡々とつぶやいて
でもまだ今でも
胸が痛いと
口をつぐんだ

うすうすは
気づいてた

相手が誰かと
いうことも
訊かなくたって
見当くらい
すぐにつくけど

相手が誰かと
いうことよりも
はるかに知りたい
ことがある

君の心にとっては
仮に
終わってしまった
恋だとしても

相手の男にとっても
それは
過去の話と
言えるだろうか

相手の男にとっての
君は
今も昔も
“友達”だと
心の底から
断言できる
存在だろうか

ジニョン

知りたくても
知る術も
まして権利も
ない僕は
どうすればいい?

じっと
待つしかないのかな?
時が来るまで

今はまだ
受け入れる余裕が
心にないって?

僕に向かって
君が詫びるの?

君が謝る
筋合いはない
そんなこと
望んでもない

僕が
待ちたいだけのこと
待ってていいなら
いつまでだって
僕は待つ
ただそれだけ

それが言えただけで
今日は充分
ほんとうに充分

金に飽かせた
ブランド物には
目もくれず

そんなものさえ
かすむほど
しとやかに装って
今 目の前に
座ってる
君に乾杯

濫費の極みと
また叱られると
覚悟しながら

それでもなお
かけてあげずに
いられなかった
ネックレス

「似合ってますか?
手鏡見ても
笑わない?」と

はにかみながら
折れてくれた
君に乾杯

心の内を
ありのままに
教えてくれた
君に乾杯

そして

待ちつづけると
言う僕を
何も言わずに
見つめてくれた
君に乾杯

誕生日おめでとう
心から