夕方の星が煌くように
いつかはこういう場面が来るとは予感していた。
ここ数ヶ月は彼女のことなんてほったらかしだった。いるのが当たり前と思うと、男は他の女性に興味が移る。僕の悪い癖であちこち女性をとっかえひっかえして遊んでいた。
「お互い様じゃない」といった彼女に反論できなかった。
そうなんだ、男の浮気だけが正当化されるはずはない。だけどショックで僕は取り乱し愕然となり、少年のような大人になってしまった。そして強がりの捨てセリフ。
まったくもって馬鹿で浅はかで、しょうもない男なのだ。
悪夢のような昨日を忘れようと、メールの過去アドレスを引っ張りだした。
そして、今そばにいる彼女をここに呼び出したのだ。
「急にどうしたの?恋愛ドラマのように会いたくなったなんて言わないでね」
「ふられた」
「えっ?」
「女にまたふられた」
「ふふっ、あなたらしいじゃないの・・・」
「喜んでない?」
「喜んでるわよ。好きな男が自由の身になったんですもの。私がまだ好きなのを知っててメールくれたんでしょ」
「・・・・ああ」
「どういう女だったの?」
「美人で・・・エッチが好きで、掃除や料理が嫌いで、社交的で・・・」
「まだ言うの?完全にはまってたのね」
「そうかもね」
「でも、終わったんでしょ」
「たぶんね・・・」
「たぶんって、未練たっぷりだね。珍しい。あなたはさっさと他の女に乗り替えるんじゃなかったの?まだ、追いかけるつもり?」
「・・・・どうかな・・・迷ってるのは確かかな」
「バカね。おやめなさい。追いかけたら女はいい気になって逃げるのよ。かっこ良く追わないほうがあなたらしいじゃない」
「・・・・・」
「それで、私にどうして欲しいの?」
「・・・・一緒に飲んでくれ」
「甘えたいんでしょ」
「・・・・・バレバレだな」
「私がいてよかったでしょ。キープも生きるのね。いいわよ、どうぞご遠慮無く甘えてくれても」
「飲もうか・・・」
僕はアロハの店員に三杯目のおかわりをした。
西陽が砂浜を斜めから照らす。今日の暑さは峠を超え、海風がいい具合にデッキに吹いていた。ビーチバレーの若い男女が声を上げはしゃいでいる。
遠い昔、同じように数人の男女で海辺に訪れ戯れたことを思い出す。
「若いといいなぁ~」
「なにが?」彼女が聞いた。
「なんでも、やり直せる。立ち直りも早い」
「あらあら、今度の別れは相当ショックだったみたいね。ご愁傷様」
「他人の恋愛なんて惚気け話より別れ話が面白いもんな。所詮、人事。君は嬉しいだろう?」
「もちろん。ずっと待ってたんだもん。私からのメールは長く続いてたけど覚えてる?」
「ああ、未練たっぷりで、確か先月まで来てたな」
「あなたも同じよ。未練があったら、がんばりたくなるもんよ。でもあなたはがんばらないでね。私が甘えさせてあげるから」
「・・・・・」
「返事がないわね。私でよかったの?」
「ああ」
「呼び出した割には冷たいじゃない」
「すまない。頭の中が整理できてないんだ。ぐちゃぐちゃ」
「・・・・・帰ろうか?一人がいいかもよ」
「いや、ごめん。いてくれないか?寂しさで押しつぶされそうなんだ」
「・・・・私は彼女のかわり?」
「・・・・・」
「だよね・・・まあ、いいか。せっかく指名してくれたんだし。何かの役に立てるかもね」
「ありがと。そばで話してくれるだけで嬉しい。来てくれて、ありがとう」
作品名:夕方の星が煌くように 作家名:海野ごはん