窓のむこうは 続・神末家綺談7
ガチャン
音をたてて受話器をとる。静寂。
「・・・もしもし?」
沈黙。何も聞こえてこない。だが、切るわけにはいかなかった。どこへも助けを求められなかった少女が、唯一、雪也にだけそれを求めている。答えたいと思う。何があっても。
『・・・でんわちょう、』
声を極限までひそめたような、そんな囁き声だった。冷たく、感情のない響き。背筋が瞬時に粟立つと同時に、通話は切れた。
(・・・電話帳って、)
受話器を戻した雪也は、積まれている電話帳に目を落とす。古いタウンページが重なっていた。厚い。
(あれ・・・これって鍵?)
ぱらぱらめくっていたページは、ある場所でとまった。鍵だ。赤い楕円のタグに、銀色のありふれた鍵がぶらさがっている。
「どうだった?」
「これがあったんだけど・・・」
電話ボックスを出て、瑞と伊吹に鍵を見せる。
「どこの鍵?」
「見たことあるな、こういうの。コインロッカーじゃないか、これって」
瑞が言う。手にとって赤いタグをまじまじと観察している。
「・・・ほら、これ。見にくいけど、マークが彫られてる。これは・・・市営地下鉄のマークだ」
作品名:窓のむこうは 続・神末家綺談7 作家名:ひなた眞白