窓のむこうは 続・神末家綺談7
少女が雪也を選んだ理由は――
「!!」
ぶちん、と電源が切れたように辺りが暗くなる。頭の先から、身体をぎゅんとひっぱられるような感覚に思わず目を閉じる。
次に目を開けたとき、伊吹は公園にいた。先ほどの夜の公園ではない。朝もやと、小雨。静寂。
(これは、俺の身体)
先ほどの少女の視点ではなかった。伊吹は伊吹として、朝の公園に立っている。砂場、滑り台。寂しい公園。
「・・・雪也くん?」
「い、伊吹か?」
朝もやの公園に、雪也が立っている。驚いたようにこちらを見つめている。
夢が繋がったのだ。
「これって・・・夢・・・だよな?」
「うん、雪也くんの夢だよ」
「おまえ本当に・・・入ってきたのか・・・」
驚く雪也を制して、伊吹は公衆電話を指す。電話ボックスの中に少女の姿が見えた。
「雪也くん・・・見える・・・?」
「ああ、見える。あの子が、小金井真咲・・・?」
「そう」
彼女は、伊吹が先ほど見たことを繰り返し再現している。どこかへ電話をかけては、受話器を置く。かけては、置く。それを繰り返している。しばらく彼女は立ち尽くしていたが、やがてその姿は消えうせ、静寂の中に二人だけが取り残された。
やがて伊吹の意識も揺らいでいく。夢が終わるのだ。
この公園に行かなくては。伊吹は意識を失う寸前まで、祈るように考え続けた。
この公園に行かなくては。夢でなく、現実の公園に。そこに少女の軌跡が必ずあるはずだ。あの悲しみと痛みが何であるのかを、ここで自身の痛みとして感じてしまった伊吹には、彼女を救う義務がある。そして、選ばれた雪也にも。
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作品名:窓のむこうは 続・神末家綺談7 作家名:ひなた眞白