覇王伝__蒼剣の舞い3
「何か、知らせてきたか?」
「南領に、蒼王が向かったそうだ」
「いよいよ動き出したか。で?」
「未だ動くなとさ。いい機会だと思うぜ?」
「心宿(なかご)には、考えがあるんだろうよ」
「考えねぇ。何考えてんだか。第一あいつは___」
「吾が何だと?」
「心宿!」
二人の後ろに立つ男は、明らかに彼らと異なる出で立ちをしていた。
鱗のような碧色の鎧にマントを羽織り、肩に向かって流れる金髪、彼ら西の人間とは違っていた。
「奎宿、婁宿、勝手な真似はするな」
「てめぇ…」
「よせ、婁宿」
「何でこいつの云う事聞かなきゃいけないんだよ!俺は信用できねぇな。こいつは“裏切り者”だろうが」
婁宿は飛躍すると、剣を振り下ろした。
だが、心宿は動じることはなく、片手を左から右へ払った。
「婁宿っ!」
「ぐっ…」
蒼い光の玉に包まれた瞬間、心臓を鷲掴みされるような激痛。
「もう一度云ってみるがいい。心臓を潰されたければな」
「心宿、もうやめろ。お前と戦うつもりはない」
「ふん」
心宿は凍てつくような眸で見据え、マントを翻し去っていった。
「…死ぬかと…思った…」
「だからよせと云ったのだ。あの男だけは、敵にしない方がいい。白王さまも、敢えて手は出してはいない」
「ドラゴン七星だからか?」
「俺たちは、残り五個を奴らより探すことだ。蒼王との戦いは、恐らくこの西領・白碧だ」
奎宿の言葉に、婁宿は大人しく従った。
心宿を信用できないと思っているのは、白将軍・須黒もそうだった。
突然、白王・聖連の側に控えるようになった西以外の人間。
____白王陛下は、白い影といい、何故いかがわしい者を側におかれるのだ。
しかも、
「今、何と?白王陛下」
「日影が、死んだ」
「日影どのが…?」
「吾の為にね」
妖しく笑む聖連の傍らに、その男はいた。日影亡き後に、新しく側近となった心宿が。
須黒が、聖連の意味を理解するのは未だ先の事になる。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い3 作家名:斑鳩青藍