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覇王伝__蒼剣の舞い3

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                    3
 「ねぇ清雅、ここは昔沼だったのよ」
 幼い息子を抱き、母親は緑色の草原を見つめる。
 「沼?」
 「そう、大昔、怪我をしたドラゴンが沼の水で角を癒したそうなの」
 「それで角宿(すぼし)?角なのに、牙の村なんて変だね。母さん」
 「ええ、そうね」
 母・桜は、にっこりと笑った。
 そうだ。牙の村の前の名は角宿と云う名前だった。清雅が生まれるずっと以前は。
 「でも、清雅この事は誰にも云っては駄目よ。大人になるまでは絶対に」
 「うん。誰にも云わない」
 「いい子ね」
 清雅は母との約束を守った。というより、忘れていた。
 他の村人はここが昔、角宿と呼ばれていたなど知らなかった。恐らく母に、それを話したのは前覇王だろう。
 龍王剣を桜に託すのと同時に。
 生まれてくる子の運命を予想したかどうかは定かではないが、少なくとも彼は、血肉を分けた子供達の中に、自分の意思を引き継ぐ者が現れる事を願ったかも知れない。親として子供が信用できないなど、あまりにも哀しく情けない。人を想う心があれば、子供は強く生きていける。覇王となれなくても、ドラゴンは護ってくれるだろう。
 未だ見ぬ四人目の我が子に、覇王は父としての想いを注いだのだろう。
 「角宿…、その意味は龍の角です。清雅さま」
 「ここにドラゴン七星の一つがあるって事か」
 「問題は、どうやってですが」
 「星宿、地にあるとしたら使う手は___」
 「はい?」
 視線が合って、拓海は「僕?」と自分を指さした。
 「心配いらねぇよ。狼靖もいる。つまり玄武が新旧二人いるんだ」
 「ですが清雅さま、地を探ると云っても簡単な事ではありません」
 「そうだよ。俺たちだって、迷ったんだから」
 鬼宿が、この場にそぐわぬ明るい声で口を挟む。
 龍珠と呼ばれるドラゴン七星は、ドラゴンの分断された本体。防衛本能が残っているとすれば、無関係な力を拒絶してくると、狼靖は云うのだ。
 「あ…」
 「拓海は、思い出したようだな。そうだ、赤の谷で使った手さ」
 奪われた龍王剣を探る為に、清雅のリードと拓海の玄武能力。
 しかも今度は、龍王剣を使うと云う。
 「理解りました」
 狼靖は、玄武の剣・亀甲文殊を静かに抜いた。
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