宝の地図
『私はある兵隊と恋に堕ちました、それが叶わぬものとわかっていましたが、花火が上がった夜、ある場所で落ち合い「僕は明日清国へ出征する。生きて帰ってきた時は、どうか私に着いてきて欲しい」と言われました。
それから私は悩み、そして彼の無事を祈りました。願いは通じ、翌年彼は帰ってきました、私の為に。そしてこの時、私は彼に着いていく事を決めたのです。
店を捨て、貴方を裏切り、両親を裏切ることは許されるものでないことはわかっています。
家を出た事に後悔はありません。ただ、貴方の事が心配で仕方なりません。
戦争が終わり、自由な世の中がやって来ました。私はここにいます。しかし私から会いに行く訳にはいきません。どうか、どうか貴方の近況を聞かせていただけませんか』
手紙を読み終えると和子さんが、
「この手紙が『遅れて来た便り』なんです」
と言った。後ろで見ていたおじいちゃんの嗚咽と目を真っ赤にした先生の顔が見えた。原作をまだ読んでいない私には感じ方は違ったと思うけど、私にも伝わるものがあった。
家にある大きな蔵から見つかった一枚の紙切れ。この手紙を読み終えた瞬間、その謎がすべて解けた。これがゲームだったら「マイコはすべての謎を解き明かした」って字幕が出てるかのようだった。ただ、ゲームとは違って笑顔はなかった。
「これは、百年前のラブレターだ……」
私は『宝の地図』を和子さんに見せて、もう一度この地図の発見からここに至るまでを説明した。
「地図のバツ印が待ち合わせ場所だ。ここでプロポーズを受けたんだ。そして『川ノホトリノA』は麻二朗爺さんのAだ……」
悲しい訳じゃないのに涙が自然にこぼれてきた。
和子さんは地図を見て大きく頷いた。
「直接の表現などできない時代でしたから、確かにこれは『恋文』ですね。これを知ってたら原作も少し変わっていたかもしれません」
「そうですな。お城で待ち合わせをしたのは想像つかなかったのぅ」おじいちゃんが言うと原作を知る三人は頷いた。
「そこに何かあったんかの?」
「思いを伝えるのには人気のないところが良かったのでしょう」
和子さんが言うと、横にいた先生はパチンと手を叩いた。
「麻衣子さん、ほら。あの時球場で僕らだけ逆に歩いて城跡を探してたじゃないか」
「……そうだ!」
あの日は花火が上がった日とある。みんな河原の方へ行くところを、逆に山で落ち合うように約束したのだ。
自由に恋愛も出来ないこの時代に、どれだけの事を考えてこの手紙を書いたのだろう。それを考えると、私にはこの手紙がとても大切な宝物に見えた――。