宝の地図
私は店長らしき人にこれまでの経緯を話すと、驚いたように私の両肩をつかんで顔を見つめて、慌ててどこかへ電話を掛けた。それから私は同じ通りのすぐ近くにある高層マンションに行くようメモを渡してくれた。お昼に祠から見えたあのビルだ。マンションの15階、表札には「町田和子」と立派な文字がある。ここに来るまで私は何も言わなかったけど、先生とおじいちゃんはそれだけで大体わかったようだ。
玄関のベルを押すと、洋服を着た高齢の女性が出迎えてくれた。写真でしか知らないキノヱ婆さんにそっくり、いや、私には本人に見えた。おじいちゃんはには事態が理解出来たようで、半分涙目になっていた。
「息子から事のあらましはうかがってます。こちらへどうぞ」
案内されて部屋の奥へと進んでいると、先生が私を呼び止めた
「麻衣子さん知ってるの?この方」
私は首を横に振った。
「さっきお店の人に『遅れて来た便り』の作者を御存知ですか?って聞いたらココを教えてくれた。その人のお母さんだって」
私たちは奥のリビングに入ると、窓一面に乙浜の景色が飛び込んできた。ここから先生の実家、午前に行った御神木、乙城記念公園まで見渡せる。
「ようこそいらっしゃいました」
お婆さんは中学生の私にも丁寧に挨拶をして席を勧めてくれた。上品な感じの方だ。
「町田和子と申します」
簡単に自己紹介をしてくれた。明治から続く喫茶店の三代目にして女流作家。先生が話題にしている『遅れて来た便り』の著者が代表作だ。昔は喫茶店の上の階に住んでいたが、建物も古くなり、経営は息子の代に譲り最近できたマンションに住み替えたそうだ。
「早速ですがこれを見ればお分かりいただけるでしょう」
和子さんは私に予め用意していた古い封筒を渡してくれた。
「これは……?」
「父に宛てられた手紙です。」
和子さんは仏壇の上にある写真を紹介した。
「町田申三郎、キノヱさんの実弟です」
私は封筒を手にした。それは私の地図よりは新しいと思うけど、この手紙も相当古い。私は封筒の裏を見ると、仮説通りの名前を見て手が震え出した。
甲山町 稲垣キノヱ
私は後ろにいたおじいちゃんに封筒の裏を見せた。眼鏡をかけ直して、その送り主を見た瞬間に、おじいちゃんの手も震え出した。
私は封筒の手紙を出して、震える手を抑えながら恐る恐る開いた。当時にしては珍しい横書きの字だ。初めて見るキノヱ婆さんの直筆。紙はかなり古くなっているが、私でもそれは読むことが出来た。