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宝の地図

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「それで、弟さんは手紙を見て何と言ったのでしょうか?」
 私が質問すると、誰も答えず時間だけが流れた。私は聞いてはいけない事を言ってしまったと直感した。
「原作では乙浜は空襲に遭うんだ……」
肩に先生の手が乗るのを感じた。
「そんな……」
「だから『遅れて来た便り』なんじゃよ」
「父は、父は最後まで生き別れた姉に会いたかったと聞きます」
 和子さんは続いて四つ切りの古い写真をみせてくれた。
「このお店が出来た時の写真です」
 私はそれを見て言葉が出なかった。店の前に立っている当時は珍しい洋服姿のウェイトレス。私とそっくりだった。明治二三年、キノヱ婆さんが一六歳の頃だ。
「貴女が来た時は伯母様が来たのかと思いました。もしや麻衣子さんは伯母様の……」
「玄孫に当たります。ちょうど120歳年下の」
「そうですか……」和子さんは立ち上がって私の両肩をつかんだ。
「麻衣子さん、御願いがあります」
「何ですか?」
「お顔を、近くで見せてくれませんか」
 私が頷くと同時に強く抱き締められた。それは会ったことのないキノヱ婆さんに抱き締められたような気がした。
「お父さん、伯母様は帰ってきましたよ……」
和子さんのすすり泣く声が聞こえる。私はこのまま立ち尽くすのがいいと思った。
「祖母は映画を見て涙を流しておりました。さぞや貴方に会いたかったのでしょう」
 おじいちゃんは仏壇に手を合わせていた。
「今頃会えていますよ」
先生もおじいちゃんの横に並び、同じく手を合わせていた。

 辺りはもうすっかり暗くなっていた。そして窓の外を見ると、大玉の花火が次々と打ち上げられ、その光で一斉に視線が窓の外に移った。立ち並ぶ団地の向こう、先生の家の辺りから光が見えたかと思うと、それを追いかけるように遅れて音が聞こえた。時代は変わっても花火は上空に上がる。マンションの15階から見える花火は上というよりも横に見えた。
「綺麗じゃのう……、通な角度じゃ」
「ご先祖様もこうやって見ていたのかな」
「当時酉岡は山だったからそうかもしれないね」
 私は上がり続ける花火を見て動きが止まった。最後の花火が上がるまで何も言うことができなかった――。

作品名:宝の地図 作家名:八馬八朔