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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで火に入る夏の虫

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 こんな一生懸命のアイの腕をマルコが掴んだ。
「帰りましょうアイ様」
「ヤダ!」
 嫌がるアイの腕を引いたのはナオキだった。
「アイはわたしの女だ」
「……ダーリン」
 好きなひとの胸に抱かれトキメキモードでナオキの横顔を見つめるアイ。でも、次の一言でゲンナリ。
「数多くのひとりのな」
「がぼ〜ん!」
 ちょっぴりときめいたアイがバカだった。ナオキ相手じゃアイは特別な存在になり得ないのだ。では直樹では?
 アイの腕から手を放したマルコが剣を抜いた。
「やはりこの小僧を殺さねばならないようだな」
「望むところでだ男女!」
 ナオキはアイの身体を背中に押し込めて魔法のホウキを構えた。
 自分を賭けて戦いをはじめようとしてる二人を見て、アイはちょっぴり胸弾ませてみたり。
「ダーリン頑張って!」
 直樹が防ならナオキは攻!
 地面を蹴り上げたナオキが普段の直樹からは考えられないスピードでマルコに襲い掛かる!
 大剣とホウキの柄が交じり合う。そして、それを挟み睨み合う二人の視線に炎が灯る
ひとりは君主の愛娘を取り戻すため、もうひとりは売られた喧嘩を買っただけ。動機はどうあれ戦いは白熱していた。
 ナオキはホウキの柄を使って相手を剣ごと押し飛ばしたところで回し蹴りを放つ。その回し蹴りを躱したマルコの顔面にすぐさまホウキのモッサモッサした部分が襲い掛かる。だが、マルコはついにホウキの柄を叩き斬ったのだ!
 ホウキを斬られたナオキに剛剣が振り下ろされる。
 カーン!
 鳴り響く金属音。空気がないから音がしないなんていう無粋なことは言わないで、魔法よ魔法。
 ナオキが相手の攻撃を受け止めたアイテムは魔法のフライパンだった。
「あ〜ははははっ、フライパンで加熱してメインディッシュに喰ってくれる!」
「戯言を抜かすな、俺の方こそ貴様を喰らってくれるわ!」
 次の攻撃に移ろうとしたナオキの身体に突然異変が起きた。
「う、うう……」
 胸を押さえてうずくまるナオキはそのまま地面に膝をついてしまった。この時こそチャンスとマルコが剣を振り下ろすと思いきや、マルコは気高い武人であった。
「大丈夫か小僧、どうしたのだ?」
「胸が……この感覚は……覚えがあるぞ……宙だな!」
 ビシッとバシッとシャキッとナオキが指差すと、ぜんぜん違う方向から声が帰って来た。
「……ナオキちゃんこっち」
 ナオキが指差した方向とは見当違いのところで宙がワラ人形に杭を打ち込んでいた。ナオキ古典ギャグありがとう。
 だが、どうして今更宙が?
 ナオキは胸を押さえながら宙に手を伸ばした。
「なぜ宙が……わたしのことあきらめたのではなかったのか?」
「……相手が自分のこと好きにならなぃのなら、ぃっそのこと呪ったれ」
 動機が不純で自己中心的。
 そして、今になって駱駝に乗って追いかけて来たモリー公爵登場。
「して、状況はどうなっておるのじゃ?」
 状況は、胸を押さえて苦しむナオキとそれに付き添うマルコ。ナオキが苦しむ原因をつくっている宙とそれに襲い掛かろうとするアイ……アイ?
 アイはどこからともなく魔法のホウキを取り出し、ホウキをブンブン振り回しながら宙に襲い掛かった。だが、宙は意外に運動神経が良いので軽く避けて、ついでにアイのおでこにデコピン!
 パシッ!
 おでこにクリーンヒットを喰らったアイは痛みのあまり倒れこみ、地面の上をゴロゴロ転がり回った。その時ナオキは見た。
「あ、くまだ!」
 揺れ動くアイのスカートの隙間から、こちらを覗いて笑っているくまさんを確認したのだ。
 身体の芯から力の湧いてきたナオキは信じられないスピードで走り、宙からワラ人形セット一式を奪い取ることに成功した!
 あからさまに『しまった!』という表情を作る宙。
「そ、そんな!?」
 このセリフもワザとくさい。
 奪い取ったワラ人形をポケットの中にしまい込んだナオキは何時になく真剣な表情をしていた。
「相手が自分のことを好きになってくれないから呪うだと? 直樹♂がどうなろうと知ったことではないがな、この身体はわたしのものでもあるのだ。宙の発言は自己中心的者にしか聞こえんな。わたしの人生はわたしの人生であって宙に滅茶苦茶にする権利はないし、直樹♂もわたしの人生を滅茶苦茶にする権利はない。わたしは必死こいて地べたに足つけて、時には走って生きてのだ。辛い時も悲しい時も報われない時もあるがな、わたしは世界の女を我がものにするまで負けんぞ、あ〜ははははっ!」
 長々としゃべったナオキに宙から一言。
「それだけ、言ぃたぃことは?」
 そして、彼女は再びポケットからワラ人形セット一式を取り出した。ちなみにこのワラ人形の名前はジョニー呪縛クン。
 再びワラ人形に杭を打とうとしている宙。ナオキの話は全く通じなかったのだ。
「おまえな、わたしの話を聞いてい……アイ!?」
 バシーン!
 アイが宙に平手打ちを喰らわせた。
「ダーリンはアタシのもんなのわかる? ダーリンがそんなに欲しいんだったら自分の力でダーリンのこと振り向かせてみれば!」
 アイに怒鳴られた宙は目に涙を浮かべて地面にへたり込んでしまった。
「ワタシ……ワタシ……」
 泣き崩れる宙の手がササッと動いて杭をゴン!
「ううっ!」
 崩れ落ちるナオキ。宙は反省していなかった。だが、宙は杭を打つのを止めたのだ。
「やっぱりこんな方法はよくなぃ……」
「わかってくれたのね宙」
「やっとわかってくれたのだな宙」
 これにて一件落着……なハズあるかい!
 というわけで、不適な笑みを浮かべる宙。
「……な〜んちゃって」
 宙は突然立ち上がったと思うと手に持っていたハンマーでナオキの頭を殴り飛ばした。だが、それをこの人が止めたのだ。
「止めるのじゃ宙とやら」
 そう、宙を止めたのはモリー公爵だった。けれどナオキはすでに倒れています。
 そして、モリー公爵は言葉を続けた。
「宙とやら、案ずることはない。皆の者、この契約書を見るのじゃ!」
 モリー公爵がどこからどもなく取り出したのはアイが直樹と交わした契約書だった。でも、ヘブライ語なので普通の人には読めません。けれどナオキはすでに倒れています。
 主君に見ろと言われたのでマルコは契約書をまじまじと見た。そして、ニヤリと微笑んだ。
「アイ様、この契約書はもうじき向こうとなります」
「えっ、そんなハズないよぉ!」
 そう言いながらアイも契約書をまじまじ見た。そして、目を丸くして口をO型に開けた。
 次に宙も契約書をまじまじ見てニヤリ。
 焦りを覚えたアイがナオキを叩き起こそうとする。
「ダーリン起きてよ、起きてください、起きろよ、起きろって言ってんだろ!」
 アイの右ストレートがナオキの顔面に炸裂して直樹が目を覚ました。
「うう……また、ナオキが外に出てたのか……で、状況は?」
「ダーリン大変なの、契約書見て!」
 モリー公爵はナオキの鼻先に契約書を突きつけた。けれど、書かれている文字はヘブライ語。
「読めねえよ!」
 声を上げるナオキの前に勝ち誇った顔をして立ちはだかるマルコが軽く咳払いをした。
「この契約書は代償を払わねば二週間で契約解除ができると記されているのだ!」