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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで火に入る夏の虫

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「どうもなにも、俺はただの通りすがりで……」
「嘘をつくな! アイ様を無理やり連れ去る気なのであろう!」
 状況的に直樹は殺られること確実。しかもアイから追い討ち。
「きゃ〜っダーリンに連れ去られるぅ!」
 ウキウキドキドキにはしゃぐニコニコ顔の緊迫感ゼロのアイが、きゃぴきゃぴしながら直樹の腕に抱きつく。これを見たマルコは怒り頂点マックス!
「おのれ、おのれ、おのれ! アイ様をたぶらかすとは許せん!」
 疾風のごとく駆けるマルコの一刀が直樹を襲い、魔法のホウキで直樹は剣を受けた?
 木製のハズのホウキがマルコの剛剣を受け止めたのだ。さっすが魔法のホウキ……だから?
 思わぬことにマルコは目を丸くして驚いた。
「たかがホウキで我が一刀を受け止めるとは……」
「マジ死ぬかと思った。カーシャさんありがとう!」
 あの時はマジで邪魔だと思ったホウキだったが、今は拳を握り締めてカーシャさんに感謝感激!
 柄を握り直したマルコの一刀が煌き、直樹は紙一重で避けた――海老反り。
 瞬時に作戦を考える直樹。そして、閃き煌き、レッツトライ!
 魔法のホウキに跨った直樹は逃げた。そう、彼は逃げた。敵前逃亡。逃げるが勝ち!
「ダーリン!」
 自分の背中に向かって誰かの声がしたが、直樹は逃げる。
 ホウキに乗って部屋を出た直樹の後ろを黒狼に変化したマルコが口から炎を吐きながら追ってくる。――ちょっぴり逃げ切れそうもないかも。
 冷や汗タラタラの直樹は白衣のポケットに手を突っ込んだ。そう、この白衣はベル先生のもので、白衣のポケットはちまたでは四次元ポケットと呼ばれているものだ。きっと何かすんげえものが出てくるに違いない。――違いないかもに訂正。
 まず直樹が取り出したるは?まきびし?!
 忍者が追ってから逃げる時に使うというアイテムまきびしを直樹は地面にばら撒いた。トゲトゲの金属であるまきびしを踏んだ敵が『あいたーっ!』って言ってくれるアイテムなのだが、マルコは廊下をひとっ飛び。軽々とまきびしを避けた。 
 次のアイテムを直樹が取り出そうとした時に、目の前に廊下の突き当たりが――つまり壁。
 ホウキは急には止まれない。
 ドン!
「うがっ!」
 壁に激突した直樹が床の上でヘバる。そして、そこに牙を剥いたマルコが襲い掛かろうとしていた、その時だった!
「止めるのじゃマルコ!」
 廊下に凛としたモリー公爵の声が響き渡った。
 マルコの牙は直樹の服に食い込み、あと一歩のところで食い千切られるところだった。直樹一安心。実はベル先生の白衣を着てなかった死んでたことを直樹は知らない。というか、白衣を破ったことによってベル先生に……(死)。
 ゆっくりと立ち上がる直樹にモリー公爵が手を差し伸べた。
「妾の宮殿ではなく、他のところでマルコと決闘するがよい」
「……へっ?」
 モリー公爵の手を掴もうとしていた直樹の手が思わず止まる。
「妾はそちとマルコが戦うことに同意しよう」
「……はぁ?」
 つまり、マルコが直樹に襲い掛かろうとしたのを止めたのは、屋敷の中で暴れられるの嫌だったから。ごもっともな理由ですな……あはは。
 モリー公爵がなにやらボソボソと唱えた次の瞬間、あらビックリ、直樹は月の表面に立っていた。

 殺風景な月の上。あるものと言ったら大小のクレーターとか。あとは星が綺麗。あとは……思いつかない。
 月の上に立つ直樹と対峙する黒狼マルコ。そして、それを見守るモリー公爵。なんだか状況がこんがらがってきちゃったよぉ〜!
 ――縺れ合う運命の糸。
 とにかくヤルっきゃないと思った直樹は魔法のホウキを構えてみる。
 構えてみる。構えてみる。構えてみる。
「次はどうしたらいいんだよぉ!」
 泣き叫ぶ直樹。ナオキじゃない直樹は弱かった。ナオキが攻なら、直樹は防。よっし、逃げとけ!
 魔法のホウキに跨った直樹は月の上を逃走。きっと、人類初の異形だろうけど……なんかねえ?
 直樹の後ろを追う黒狼マルコ。黒狼の姿こそがマルコの真の姿であり、この姿の時のこそマルコは真の力を発揮する。
 マルコの前足の付け根あたりが盛り上がり、肉の中から白い翼が皮を突き破って生えたではないか。次に尾が蛇のように鱗の覆われたものに変わり、その動きはまるで鞭のようだった。これこそが天使たちを大いに苦しめた魔獣マルコシアスの姿。
 天に舞い上がったマルコは降下しながら直樹に狙いを定めて必殺技――〈炎のつらら〉を放った。
 マルコの羽根から炎の槍が直樹を襲う。この必殺技は一撃で約四〇〇〇?を火の海にできるというのだが、宇宙空間は空気がないから威力激減。ちなみに〈炎のつらら〉をマルコに与えたのはベル先生であり、ベルがマルコに不思議な薬を飲ませたことにより、能力を開花させたのだ。
 直樹は上空から降り注いでくる〈炎のつらら〉を魔法のホウキを右へ左へさせながら避けつつ、ポケットの中に入っていた紙切れを取り出して音読した。
「――これを読んでる頃はきっと苦戦して死にそうになってるに違いないわぁん。そこで、そんな直樹のために取って置きの秘密兵器を今なら特別特価の一万円で売ってあげるわぁん。……売るのかよ!」
 直樹は役立たずの紙切れを投げ捨てて、再びポケットの中に手を突っ込んで何かを取り出した。
「呼ばれて飛び出てチャチャチャチャ〜ン!」
 直樹が白衣のポケットから取り出したのは、なんとアイだった!
 出て来るなりいきなりアイは直樹の身体に抱きついた。
「ダーリン!」
「うわぁっ、止めろ、運転中だ!」
 酔っ払い運転とでも表現すべきか、魔法のホウキが右へ左へ動き回る。それを上から狙っているマルコにしてみれば、狙いが定まらなくていい迷惑だ。って、これってラッキー?
 だがしかし!
 みなさん、酔っ払い運転はよくありません――だって事故るから。
 直樹とアイを乗せた魔法のホウキが突然落下しはじめる。そして、ドーン! と地面に衝突。飲酒してなかったのに事故った。原因は別にあったのだ。
 今日の格言――二人乗りは危ないからいけません!
 地面落下した直樹の上には当然のようにアイが抱きついて乗っている。
「ダーリン大丈夫?」
「う……うう……ふっはははは、あ〜ははははっ!」
 ま、まさか……?
 抱きついていたアイの身体に伝わるやわらかな膨らみ。自分より遥かに大きい胸、胸、爆乳!
「ダーリンもしかして……?」
「あ〜ははははっ、魔王準備中ナオキ様光臨!」
 アイを抱きかかえて立ち上がったナオキはホウキを構えてマルコを待ち構えた。
 降下して来たマルコは地上に降り立ったところでヒト型に戻り、アイの瞳を見据えながらゆっくりと歩み寄ってきた。
「アイ様、その小僧からお離れください」
「ヤダよぉ〜だ!」
「アイ様!」
「アタシはやっぱりダーリンと一緒になるんだもん。ねえダーリン?」
 アイに上目遣いで同意を求められたナオキは、あっさりきっぱりさっぱり首を横に振った。
「いいや。直樹♂はどうか知らんが、わたしはおまえのことなど数多くいる女のひとりとしか見てないぞ」
「がぼ〜ん!」
 アイちゃん的大ショック!
 でも、アイちゃんは負けません。
「それでもアタシはダーリンに尽くすからいいよ」