飛んで火に入る夏の虫
主人が殺すな言ったら殺すことは叶わない。主人に死ねと言われたらマルコは自ら自害する。モリー公爵の言葉はマルコにとって絶対であるのだ。ナイス忠誠心!
刀を鞘に納めたマルコはその場に胡坐をかいて座り込んだ。もう、何もすることはない。
気絶するナオキにベル先生がどっかから持ってきたバケツで水をぶっ掛けた。すると、ナオキがゆっくりと目を覚ました。
「ううん……よく寝た。ってどこだよここ!?」
ナオキは直樹に戻ったらしく、状況理解ができていない。
キョロキョロ辺りを見回して脳ミソフル稼働の直樹にアイが力いっぱい抱きつく。
「よかったダーリン!」
「よかったじゃなくて誰か状況説明しろよ」
道端にちゃぶ台で置いて団らんする二人と、地面にあぐらをかいている武人風の巨乳のお姐さん。直樹には理解不能なシチエーションだった。
ようかんを食べ終えたモリー公爵が重い腰を上げた。
「マルコ帰るぞよ、もちろんアイもじゃ」
「アタシもぉ〜!」
モリー公爵の言葉にアイは顔を膨らませて不満満々だが、マルコは一気に元気を取り戻した。
「アイ様、今すぐ俺たちと帰りましょう」
差し伸べられたマルコの手をアイは引っ叩いて振り払った。
「ヤダヤダヤダ、アタシはダーリンと一緒に暮らすんだもん!」
「アイ様! 我が儘を申さずに俺たちと帰るのです」
マルコがアイの腕を引っ張り、アイが直樹の身体に抱きつき、直樹は片手を上げて質問で〜す。
「アイが帰るとかどうとかってどういうことか誰か説明してくれ」
「わたくしが説明してあげるわぁん」
急に立ち上がったベル先生が口をモグモグさせながらマルコに手を向けた。
「まず、この人がマルコシアス侯爵。愛称はマルコちゃんで、わたくしのいい実験台」
次ぐにベル先生はモリー公爵に手を向けた。
「次にこの人はグレモリー公爵。愛称モリーちゃんで、好きな物は金銀財宝。そして、驚かないで聞きなさぁい、な、なんとこの人がアイちゃんのママよぉん。まあ、養女なんだけどねぇん」
説明された内容を直樹は頭の中で整理整頓。まず、巨乳のお姐さんがマルコで、アラビアンな衣装を着てる方がアイの母親。そして、直樹は時間差で驚いた。
「アイの母親!?」
驚く直樹の肩にベル先生が手をポンと置いてしみじみ語りはじめる。
「実はね、アイちゃんは家出少女だったのぉん。それで母親のモリーちゃんが遥々遠くの国からアイちゃん迎えに来たたのよぉん。だから、アイちゃんはモリーちゃんと一緒に帰らなきゃいけないの、わかったかしらぁん?」
「そっか帰るのか家に……」
素っ気なく言う直樹にアイは涙を浮かべながら抱きついた。
「アタシ帰らないよ、ダーリンと一緒にいるんだもん」
マルコがアイを強引に引き離し、直樹に手を伸ばすアイの身体をちょー強引に引きずる。
「人間のことなど忘れて帰るのですアイ様!」
「ヤダよ、帰りたくないって言ってるでしょ」
マルコに引きずられるアイの腕をモリー公爵も掴んだ。
「帰るのじゃアイ!」
「ヤダヤダ、帰りたくない。ダーリンだってアタシが帰ってらヤダよね?」
空を仰いだ直樹はゆっくりと顔を下ろし、泣きじゃくるアイの顔をしっかりと見て言った。
「自分の家があるならさっさと帰れよ、俺はおまえに付きまとわれてただけなんだから……」
「…………」
アイの涙が急に止まり何も言わなくなった。
モリー公爵とマルコに連れられ小さくなって行くアイ。そして、歯を食いしばっていたアイが力いっぱい叫んだ。
「ダーリンのばかっ!」
異界のゲートが開かれ、アイたちの姿は完全に消えた。
「……ばかって言うやつがばかなんだよ」
直樹は呟いて地面にあぐらをかいた。
作品名:飛んで火に入る夏の虫 作家名:秋月あきら(秋月瑛)