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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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飛んで火に入る夏の虫

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 円陣を組んでいた雪だるまが太鼓や笛のリズムに合わせて躍り出し、アイと美咲の周りをグルグル回りはじめた。表情のない雪だるまたちがグルグル回る様は異様で怖ろしい。しかも、無言で淡々とやっているところがよけいに怖い。
 危機感を感じた直樹は簀巻きにされながら喚き散らす。
「アイたちに何する気だ! おい、俺の縄を解きやがれ。てめえら全員かき氷にして喰ったるぞ!」
 喚き散らす直樹の近くにフライパンを持った雪だるまが近づいて来てゴン!
 フライパンが直樹の頭に痛恨の一撃。
 殴られた直樹はそのまま雪に顔を埋めながら気を失った。と思いきや、雪の中から笑い声が漏れてきた。
「はははは、あ〜ははははっ!」
 雪に埋もれていた直樹がバシッと顔を上げて高笑いをした。
「あ〜ははははっ、魔王ナオキ様登場!」
 一部始終を見ていたアイと美咲が苦い顔をする。
 簀巻きにされている直樹がムクッと立ち上がり、ピョンピョン飛び跳ねながら進む。その格好は蓑虫が飛び跳ねているようでかなり滑稽だ。
 蓑虫野郎に雪だるまたちが襲い掛かる。だが、ナオキは強い。伊達に魔王は名乗っていない。秘儀、蓑虫キック!
 グルグル巻きにされているナオキの必殺技はジャンプキック。ピョンピョン飛び跳ねながらジャンプキックを雪だるまたちにくらわし、敵をばっさばっさと倒しいく。その姿を見てアイは幻滅。蓑虫キックはあまりカッコよくなかった。王子様には程遠い。
 雪だるまたちを一通り倒したところでナオキは高笑い。
「ははは〜っ、どうだ参ったか。これが魔王ナオキ様の実力だ!」
 地面が微かに揺れた。
 ナオキの高笑いは続く。
「あ〜ははははっ、ははははっ、はははは〜ん!」
 地響きがどこかから聞こえる。ナオキはそれにも気づかず馬鹿笑いをする。
「は〜ははははっ!」
 ナオキの声は空気を震わせ、自然の驚異を呼んでしまった。
 美咲がいち早く気づいて叫び声をあげる。
「あれ見て!」
 蒼ざめた顔をする美咲の視線の先を見たアイの顎が外れる。
「雪崩かよ!」
 巨大な雪崩が海の高波のように山の斜面を滑り落ちてくる。
「あ〜ははははっ……は?」
 ゴォォォォォォッ!
 ナオキが気づいた時には彼女の視界は真っ白だった。

 ――数日後。
 高熱を出して自分の部屋で寝込んでいる直樹にアイは付きっきりで看病をしていた。
「ダーリン大丈夫?」
「大丈夫なわけないだろうが……は、は、はっくしょん!」
 唾を飛ばして鼻水ダラダラの直樹。
 あの雪崩が起きた時、アイと美咲は上空から魔法のホウキに乗って現れたカーシャによって間一髪のところを助けられたのだが、ナオキだけは雪崩に巻き込まれてしまった。
 雪崩に埋もれたナオキが発見された時には、ナオキの身体は冷凍保存されていてカチカチに凍っていた。
 そんなこんな今に至る。
 直樹の部屋にある机が突然ガタガタと揺れ、引き出しが勢いよく開き、中から蒼白い手がニョキっと出た。それを見た直樹は思わず声をあげる。
「幽霊か!?」
 引き出しの中から蒼白い顔をした頭がぴょんと出た。
「こんばんわ」
 カーシャだった。
「ふふふ、お見舞いに来てやった(本当は嫌がらせに来たやったのだがな……ふふ)」
 あの時起きた雪崩の勢力は思いのほか凄まじく、カーシャの住まいである通称『カーシャちゃん御殿』の全部が呑まれるほどだった。
 引き出しから這い出て来たカーシャはふとんの中で眠る直樹の枕元にちょこんと正座した。
「どうだ具合は?」
「見ればわかるだろ……はっくしょん!」
「だいぶ悪そうだな。うむ、そんなことよりも、この家は客に茶も出さんのか?」
 厚かましい要求を聞いてアイがしかたなく台所に向かう。
 部屋に二人きりにされると、直樹はいろんな意味でドキドキする。
 カーシャが軽く咳払いをして不適な笑みを浮かべた。
「ところでベルフェゴール――いや、ベルの姿を見たか?」
「いや、見てないけど」
「そうか、ということはまだ城の中か」
「はい?」
「実はな、あの雪崩のせいで我が城が全部雪崩の中に埋もれてしまってな、まだ掘り起こしていないのだ」
 あの雪崩が起きた時、ベル先生は城の中でティータイムをしていたのだ。ということは……?
「マジっスか!?」
 アイがちょうどお茶を運んで来たところで直樹が大きな声を出したもんだから、驚いたアイはおぼんを放り投げ、上に乗っていたコップからお茶が脱走を企てた。
 お茶は引力には逆らえず落下。バシャン!
「…………(熱い)」
 カーシャにかかった。しかし、カーシャの表情は少しも変わらなかった。むしろ、慌てたのはアイだった。
「カーシャさん、大丈夫ですか!」
 アイは慌てて近くにあったティッシュ箱を手に取って、ティッシュをガーって何枚も取ると、カーシャの顔を拭きまくった。
「はぁ……はぁ……これだけ拭けば」
 肩で息をするアイ。その近くで直樹の顔は蒼ざめていた。
 カーシャの顔からはお茶は一滴たりとも残さず消滅した。……しかし、カーシャの顔はティッシュのカスですごいことになっていた。それに気付いたアイの顔を蒼ざめた。
 素早く直樹が近くにあった布をアイに手渡すと、アイは一心不乱にカーシャの顔を拭いた。
「ごめんなさいぁ〜い!」
 一生懸命誠意を尽くしてアイはカーシャの顔を拭いた。のだがカーシャは思った。
「……ぞうきん」
「俺としたことが……」
 直樹の顔が凍りついた。
「ぞうきんを手渡しちまった」
 カーシャはふとんで眠る直樹の襟首を掴んで立ち上がらせると、無言で直樹の腹にボディーブローをくらわした。
「うっ……痛い」
 カーシャのボディーブローはアマのものではなくプロのパンチだった。
 直樹は腹を押さえながらゆっくりと床に倒れこむと、それっきり動かなくなった。ち〜ん、御愁傷様でございます。
 何事もなかったようにカーシャは話題を変えた。
「そうだ、こいつにお見舞いの品を持って来てやったのだ」
 そう言ったカーシャは机の引き出しの中に手を入れると、両手に収まりきれほどの雪を取り出して、床で死んでる直樹の身体にドサーッとかけた。
「かき氷にして食すがよい(ふふ、仕返しだ)」
 カーシャは不適な笑みを浮かべて引き出しの中に帰っていった。と思いきや、顔だけを出して一言。
「ベルが帰ってきたら、夜間のひと気のない道は背中に気をつけろ(……ふふふ)」
 今度こそカーシャは帰って行った。
 夏はまだまだ遠く、直樹の風が悪化したことは言うまでもない。