小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

飛んで火に入る夏の虫

INDEX|17ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 

「あと、今はベルフェゴールじゃなくて、鈴鳴ベルっていうのよぉん。で、質問の答えは、この子は人間の直樹。女顔だけど、列記とした男の子よぉん」
「発する気で男だということはわかる(面食いのベルフェゴールが好きそうな顔だ……ふふ食べちゃうぞ……いや、お止めになって……がはは、いいではないか、いいではないか……あぁん、お代官様ぁ……ふふ)」
 カーシャは想像力……妄想力豊かな女性だった。
 部屋にあるテーブルに着いたカーシャは、ティーポットから温かい紅茶を三人分カップに注いだ。
「まあ、茶でも飲んで寛げ」
 カーシャに促されたベル先生は椅子に座ってティーカップを手に取る。直樹も異様な雰囲気を醸し出すカーシャに警戒心を払いながら席に座ってティーカップを手に取った。
 紅茶を一口飲んだカーシャがベル先生に視線を向ける。
「何しに来た?」
「伝説の林檎を採りに来たついでに遊びに来たのよぉん」
「ほう、あの林檎を採りに来たのか。それで、もう採って来たのか?」
「今あたくしの生徒二人が死に物狂いで採りに行ってるのよぉん」
「ほう、他力本願か……なかなかおまえらしい。だがな、いいことを教えてやろう。次の林檎の収穫時期は三千年後だ。今行っても実はなってないぞ(ビバ無駄足……ふふ)」
 紅茶を飲んでいたベル先生の手が止まる。
「えぇーっ!?」
 大声を上げるベル先生の横で直樹が紅茶を盛大に噴出した。
「なんですとーっ!?」
 勢いよく噴出された紅茶はカーシャの顔面に直撃し、焦った直樹は近くにあった布でカーシャの顔を拭いた。
「ごめん、ごめん、ごめんなさい!」
「……わたしの顔をなにで拭いているか教えてやろう――ぞうきんだ」
「ぐわっ!?」
 慌てて飛び退く直樹。だが、もう遅い。物的証拠として直樹の手には雑巾が握られ、証言者としてベル先生もいる。有罪確定!
「ごめんなさい、ごめんなさい、わざとじゃないんです!」
「わたしは心の広い女だ許してやろう(嘘だ……後でちゃんと呪ってやる……ふふ)」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
 床におでこをつけて土下座する直樹。彼は後で呪われることを知らなかった。
 取り乱した直樹を尻目にベル先生は気を取り直し、先ほどの驚きなど嘘のようなすまし顔で紅茶を一口飲んで、少し口元の上がってるカーシャに話しかける。
「林檎がないって本当なぉんカーシャちゃん?」
「本当だ。一〇年前に林檎狩りの招待状送っただろう?」
「一〇年前……?」
 難しい顔でおでこに手を当てて、ベル先生の内宇宙への旅がはじまる。記憶を巡り巡らせ、記憶の扉を開ける。そこにある白い封筒と10年の消印。はっとしたベル先生は顔を上げた。
「そー言えば届いてたわぁん。そうそう、その日は急な用事ができて林檎狩りに行けなかったのよねぇん。おほほ、な〜んだ」
 もぉ、ベル先生ったらうっかりさん。なんて悠長なことを言ってどうする。何も知らずに林檎を採りに行かされてる二人の運命はいかに!?
 ここに追い討ちをかけるようにカーシャがボソッと呟く。
「そう言えば、この山に最近物騒な輩が住み着いてな」
 絶体絶命。
 この話を聞いた直樹がカーシャに激しく詰め寄る。
「マジですか!? 物騒ってどのくらい物騒なんスか!?」
「女子供がよく狙われて、あ〜んなことやこ〜んなことをされて、仕舞いにはそ〜んなこともされるらしいぞ(きゃあ、お代官様ぁ)」
「マジでーっ!?」
 城の中に響き渡ちゃった直樹の声。ちょー絶体絶命。
 カーシャが無表情のままボソッと言う。
「マジだ」
 直樹の心は不安で押し潰されそうになった。早く二人を助けに行かなきゃいけない。そんな衝動にかられて居ても立ってもいられない。――胸が熱く苦しい。
「ベル先生どうにかしてくだいよ。二人とも女の子だから絶対狙われるじゃないですか!」
「めんどくさいから嫌よぉん」
「めんどくさいってなんですか!? 元はと言えば先生が無理やり採りに行かせたんじゃないですか?」
「違うわよぉん、直樹を賭けて熱い戦いをしに行ったのよぉん」
 絶対にベル先生は助けに行く気ゼロだった。しかも非を絶対に認めない。さすがベル先生。
 ベル先生も話しても埒が明かないことを悟った直樹はカーシャに顔を向けるが。
「ヤダ(ぴょ〜ん……ふふ)」
 即答。カーシャは人の言うことを聞くのが嫌いな女だ。というかまだ言われてないのに断った。
「そんな、だってここってカーシャさん領地でしょ?」
「関係ない(ぴょ〜ん)」
 また即答だった。もう一度確認のために言うが、カーシャは人の言うことを聞くのが大嫌いな女だ。
「カーシャさん、そこをなんとか……」
「知らん(ぴょ〜ん)」
 またまた即答だった。改めて言うが、カーシャは人の言うことを聞くのがちょー大嫌いな女だ。
 ため息をついたベル先生が立ち上がり、椅子に座るカーシャを見下げる。
「立ちなさい」
 こう言われたカーシャは無言で立ち上がりベル先生を見据える。
 立ち上がった女同士が互いを無言のまま見据える。殺伐とした空気が場を満たし、直樹の息は詰まってしまいそうだった。いったいこれから何が起ころうとしているのか!?
 ベル先生の拳が高く上げられ、カーシャの拳も高く上げられた。そして、ベル先生が大きな声を出した。
「最初はグー、ジャンケンポン!」
 ベル先生がグー。カーシャがチョキ。勝者――ベル先生!
 ジャンケンに負けたカーシャが床に膝をついてうなだれる。
「ま、負けた…わたしの負けだ……」
 この一部始終を見ていた直樹はポカンと口を開けた。
「はぁ?」
 呆然とする直樹の肩に立ち上がったカーシャ先生が両手を乗せる。
「というわけだ。わたしがおまえと救出大作戦に行くことになった」
「はぁ」
 つまり、さっきのジャンケンはベル先生とカーシャのどちらがアイと美咲を助けに行くかというのを決めるためのものだったのだ。
 どこからともなく魔法のホウキを取り出したカーシャはそれに跨り直樹に顔を向ける。
「後ろに乗れ」
「はぁ?」
「後ろに乗れと言っているのだ」
「はぁ」
 カーシャがしているようにホウキに跨った直樹。
「わたしの腰にしっかりと手を回せ」
「はぁ」
 直樹はカーシャの背中に自分の身体を密着させ、腕をカーシャのお腹に回してしっかり掴まった。カーシャの長い髪からシャンプーにいい香りがする。直樹はカーシャの身体からちょっぴり離れてへっぴり腰になった。
 キラリーン! とカーシャの瞳の中に光が宿る。
「では行くぞ!」
「ぐわぁっ!?」
 直樹を乗せた魔法のホウキが空に浮き、もうスピードで動き出した。しかも、ここって部屋の中。
 城の中のため低空飛行をする魔法のホウキ。そんじゃそこらの絶叫マシンより、よっぽど怖い。ちなみにバイクの後ろよりも怖い。
 廊下に灯る蝋燭を巻き起こす強い風で消しながら、魔法のホウキは猛スピードで廊下を抜けた。
 ゴォォォォッ!! と直樹の耳は風の音以外の一切の音を遮断され、身体に伝わる揺れは震度四くらい?
 城門を抜けたところでカーシャが大声を出す。
「しっかり掴まれ!」
「ぐわぁっ!?」