即興小説集2
(1時間/お題:孤独な夜中/攻め←ストーカー受け)
電気を消した真っ暗闇の中、唯一の明かりである携帯の画面が顔を照らす。
外から聞こえる虫の声以外の音はなく、極限まで静かな部屋が寂しさを倍増させる。
「寂しい……」
ぽつりと本音を呟いてみたところで何も変わらない。どころかますます切なくなるばかりだった。
何だか今日はいつもに増して人恋しい気分でいっぱいだ。
主な原因は昼間に友人が「聞いて聞いて!俺、恋人できたんだ!」と嬉しそうに報告してきたせいなのかもしれない。
なんだよあいつ、抜け駆けしやがって。俺の見てない隙に恋人なんか作りやがって、クソッ!
何に対して怒っているのかは自分でもよく分からなかったが、寂しさを怒りに変えれば少しは発散できるかもしれないと思い、誰もいない部屋で思いのたけをぶちまける。
しかし考えとは裏腹に、口に出したせいでむなしさに拍車がかかってしまったように感じる。
駄目だ、寂しいだけじゃなくてなんか悔しくなってきた。
いつもならこういうときに友人を呼び出すのだが、「今日は初デートなんだ」と浮かれた様子で言っていたので迂闊に誘うことも出来ない。
あー、なんでまた恋人なんて作ったんだ。その思いが先ほどからループして仕方なかった。
しかしこんな俺にも唯一の逃げ道、そしてこの寂しさを紛らわせられる場所がある。
「暇なう、っと」
常に誰かが集まっている、ツイッターだ。
こうやって呟けば誰かしら反応してくれるだろ。その予想が見事的中し、程なくしてリプライ通知が画面に表示される。
『偶然だね、僕も今暇なんだ!』
「おっ、食いついてきた」
リプライの主はツイッターで長い付き合いのあるやつからだった。
彼は俺の発言ひとつひとつに反応してくれて、尚且つひとつ残らずお気に入り登録をするというやけに絡みが多いやつだ。
コミュニケーションがしたくてツイッターをやっている俺にはそれがなんだか嬉しかった。
送られてきたリプライに『俺以外に暇なやつがいてよかったよ』と返す。
送信し終えたかと思えば即効返事が戻ってきた。早い。こいつも相当暇なんだな……。
『僕も話し相手がいてよかった。寂しさは紛れたかな?』
「ん……?」
返ってきた文字を訝しげに読む。あれ、俺寂しいなんて言ったっけ……?
でもまぁ、無意識にそれっぽいこと言ってたのかもな。
そう自分を納得させて、また他愛もない言葉を返す。
『そうだな、お前と話しているうちにだいぶ満たされてきたよ』
すると再び数分も経たないうちに通知がなった。やっぱりこいつ早いな。暇つぶしになるからいいけど。
『そっか、それはよかった!僕も胸の中が君でいっぱいだよ。体中に君が溢れてるんだ』
「おぉ、そうか……」
なんかさらっとすごいこと言ってないか、こいつ?
情熱的な言葉の羅列に若干引き気味になりながらも、とりあえず『ありがとう』と入力する。
続けて『よっぽど俺のことが好きなんだな、いつも俺の発言をお気に入りしてくれてるし』と冗談めかして普段の反応についても触れておく。
次はどれぐらいの早さで返ってくるんだろう。そう思いながら送信ボタンをクリックした。
『うん、だーいすき!世界で一番君の事が好きだよ!でも君はそんな僕にちょっと引いてたでしょ?ショックだなぁ……』
例に漏れずものすごい早さで返ってきた返信は、どこか違和感があるものだった。
あれ、おかしいぞ。なんでこいつ、さっきの返事に俺が引いてたってこと知ってるんだ……?
考えれば考えるほど怖くなってきて、今までごろんと横たえていた体を上半身だけ起こす。
すっかり暗闇にも目が慣れているので部屋の電気はつけないが、キョロキョロとその場で周囲を見渡す。
俺の気のせいだよな?考えすぎだよな?
『引いたなんてとんでもない。嬉しかったよ』
とりあえず先ほどのリプライにコメントを返す。送信ボタンを押す指が少し震えた。
次にどんな返信がくるのかを考えると恐怖心が湧き上がる。
きっとこれは俺が深読みしているだけなんだ。どうか普通の内容がきますように……。
祈るように携帯を握り締めて待っていると、通知を知らせるランプがチカチカと点滅した。
うわっ、きた……。ドキドキと心拍数が速くなり、嫌な汗が流れてくる。
ふー……と深く息を吐いてからリプライのページを開けば、やはりそこには恐怖を煽る文字列が並んでいた。
『嘘ついても無駄だよ。僕、君のことなら何でも知ってるんだから。でもだからってそんなに怖がらなくてもいいんだよ?大丈夫、僕と君の仲じゃないか』
「……なんで、こいつ……」
俺が怖がってること知ってんの?
さっき送った俺のリプライの内容とは全く関係のない、しかしそれは紛れもなく今の状況にぴったり当てはまりすぎている返信だった。
なんで、俺言ってないよね?怖いだなんて一言も呟いてないはず……。
怖くなって思わず携帯を放り投げる。
最後のリプライにまだ返信を返していないはずなのに、チカチカと通知を知らせるランプが忙しなく光っている。
暗闇に光るそれはあまりにも不気味すぎて、この状況に耐えられなくなった俺は部屋の蛍光灯をつけるために一歩踏み出した。
ギシリ、と床板の軋む音がする。と、同時に天井板がガタリと揺れた。
家鳴りや動物の足音にしては不自然なそれは、続けてガタガタと激しい音を立てた。
どうやら板を外しにとりかかったらしい。
嫌でも耳に入ってくるその物音に、自然と口から「ヒッ……!?」と悲鳴が漏れた。
もう諦めるしかないのか。もうここから逃げられないのか。
涙目になる俺とは対照的に、天井から表れたそいつはにこりと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「これで暇じゃなくなったね。こんばんは、お邪魔します」
ああ、どうやら一人だと思っていたのは俺だけで、実はずっと一緒だったんだな、俺たち。
絶望的な状況下の中、そんなどうでもいい考えだけが頭に浮かんだ。