即興小説集2
本当は逃げなくちゃいけないんだろうけど、目的を果たせた安堵感と不快な音に蝕まれて思わずうずくまってしまった。
(でも、これで先生も、ボクと同じ気持ちになってくれるはず)
大切なものを失った喪失感を味わってくれるはず。
これっぽっちも面白いはずないのに、口から笑いが漏れてくる。
はは、はははは、と力のない笑い声と、ボクの前に倒れこむ血まみれの人から発せられる呻き声。
これ以上にない不快な音にまみれた空間に、さらに醜い声が追加される。
車のブレーキ音。聞きなれた先生の声。パニックになっているらしく、荒々しい声で何か騒いでいる。
「はは、同じだ……」
先生の結婚を知ったときに感じた、ボクの心の中と同じ状況だ。
そう漏らした自分の声が一番汚れている気がした。