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ヤマト航海日誌

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2017.1.16 もし太陽系宇宙軍の戦闘機パイロットが〈カーニバル・ナイト作戦〉をマネジメントしたら



平沢千明は〈リゲイン〉を飲んでいるので24時間の戦闘が可能だ。恐るべし昭和日本のビジネスマン。バイクでグルグル一日じゅう星南学園女子部のまわりを走っている。小牧ノブを拉致するためには、SCFはなんとかしてこの〈レッド・バグ〉を排除しなければならない。

ということで〈カーニバル・ナイト作戦〉が実施される。国立の街に戦車とヘリと戦闘機と爆撃機を合わせて百も送り込む。〈レッド・バグ〉を小牧ノブから遠ざけるには、それだけの戦力が必要なのだ――。

なんてなことが書いてあるような小説を読むと、未熟な高校二年のガキでも疑問に思うものである。別にそんなことしなくても、警察に電話一本掛けるだけで済むんじゃないのか。「あのですねえ」とか言って。


「近くの学校の女子寮のまわりをバイクでグルグル走る男がいるんです。どうも怪しく見えるんですが、調べた方がよくないですか?」


SCFがやらなくても、近所の住民みんなが通報するだろう。平沢は357マグナムを懐に入れているだけでなく、バイクとクルマに重火器を積んでる。マッポにバンをかけられたら言い逃れのできない立場だ。

よって警察が来たならば、スタコラサッサと逃げるしかない。SCFは〈バグ〉の居ぬ間に楽々とノブを誘拐できるのである。

というわけで引き続き話は『妖精作戦』だ。映画を見るとクレジットに〈プロダクション・マネージャー〉なんて役割のスタッフがいたりするようないないような。いるとしてもどんな仕事なのか知らないが、なんであれ〈マネージャー〉なんていうものはいてもいなくてもどちらでもいい、そういう存在なのであろう。アニメの企画会議室で、


「あのさー中高生なんてものは、細かいことをどうせ気にやしないんだから、戦車とか戦闘機とかドバンと出して街で派手に暴れさせる、そういうものを見せてやれば喜ぶんだよ。だからそういうシーン入れてよ」


なんていう発言をして仕事した気になっている。それがきっと〈プロダクション・マネージャー〉というものなのではないかと思う。

『妖精作戦PART III カーニバル・ナイト』のクライマックスは実に実につまらなかった。前回のログに『おもしろいと思いながら読んでいた』と書いたのは『全体としては』という意味で、あの〈市街戦〉に関しては『デタラメもたいがいにしろ』とだけおれは思って読んだことをひとつ補足しておきたい。

戦車やヘリが暴れるさまを読まされても『くだらん』としか思えない。『無駄だ。無意味だ。愚劣で幼稚だ。この話に平沢はそもそもまったく必要がなかった。こんなものを読まされてもシラケるだけだ』と思っているところに小牧ノブが「いやあーっ! 宇宙開発って」と言いやがるもんだから、堪忍袋の緒が切れて、


「お前ら、邪魔だからどっか行ってろ! おれは和沙結希をめぐる展開以外は全部どうでもいいんだ!」


と本に向かって怒鳴りたくなる。そう感じて読んだことをひとつ補足しておきたい。

おれが〈マネージャー〉、つまり、この場合は朝日ソノラマの担当編集者ということになるのだろうが、それであったなら原稿を読んで言ったであろう。


「笹本さん、これはダメだよ。戦車やヘリをドカドカ出せばいいっていうもんじゃあないよ。ここはマイク・ウォーレンと平沢の対決にするっていうのはどう? テレパシーで心を読んで攻撃してくるマイク・ウォーレンに平沢は勝てない。拳銃と格闘だけの闘いの方が絶対いいよ。手こずってるうちノブがクルマで連れ去られ、沖田がバイクで追いかけるのに対して結希が――なんて具合に。そんなハラハラ展開に読者ってのはページをめくらされるんだよ。それがわからないようだと、あなたは〈ほんとの売れる作家〉にはなれないよ。一生こんなんだけ書いて、出渕裕みたいなやつとツルんでいられりゃいいと言うなら、それでもいいでしょうけどさ」


と。でも同じ日に出たんだよな。なんてんだっけ。確か〈ヒマラヤの雪男〉とか、そんな名前の〈大型新人〉のなんとかいうデビュー作の挿絵を描いたのが出渕裕。下妻の書店で『カーニバル・ナイト』と共にあのカバーイラストを見て、『おお、噂の〈ぶっちゃん〉とかいうのがついにこんな仕事まで』と思ったあの日がおれには昨日のことのようでありますよ。

〈出渕裕〉という名前を最初にどこで知ったのか記憶が定かでないのだが、あれを見たとき『アッ、この名は確かどっかで――』と思ったのは覚えているんだよな。なんかやたらといろんなところに自分から出向いて〈押しかけマネージャー〉をやってるという、鵺(ぬえ)のような存在の噂をチラチラ見聞きはしていたと思う。しかし、ハッキリ『これが出渕裕の仕事だ!』てえのを見たのはあの挿絵が最初だったな、おれの場合。

その後は見るたび『早く死ねばいいのに』と思っているわけだが、ええと……なんの話だっけ……そうだ、〈マネジネント〉についてだ。『カーニバル・ナイト』のクライマックスで平沢とマイク・ウォーレンを対決させれば、両方のキャラが生きてメチャメチャカッコいいものが出来る。誰かがそれに気づいて笹本に教えてやるべきだったという話だった。

けれどもしかし、それができる〈真に有能なマネージャー〉は朝日ソノラマにいなかった。もちろん今のラノベ編集室にもただのひとりもいないだろうし、アニメの制作現場にもいない。

いるのは出渕裕だけだ。どこの企画会議室にも出渕裕の席が必ず用意されていて、「アニメにはロボットとか戦闘機が必要だよね。市街戦とかやろうよ。ボクがマネジメントしてあげるから」と言ってると。

そうして今もどこかで益体(やくたい)のない〈出渕裕の仕事〉が積み重ねられている。人類の負の遺産だ。マイク・ウォーレンは一体どこで何をしているのだ。〈カーニバル・ナイト作戦〉で〈F-16〉のコクピットに就きながら、この男が何をしてたか謎に包まれてしまっている。ただクルクルと意味もなく平沢の〈Me163〉と空でワルツかオクラハマ・ミキサーでも踊っていたのか。


「出渕先生、この場面、マネジメントしてください」

「まかしとけ! ただ飛行機がタリラリランしてりゃいいんだろ? そういうのは得意なんだ」


そうだろうなあ。〈ぶっちゃん〉にはそんな仕事しかできないことをみんなよく知ってるもんな。

平沢はこの後どうせ本当に話に要らなくなるんだからここでマイク・ウォーレンに殺されてもいいはずだ。幹本沙織の占いでは死ぬことになってたはずなんだから、そうでないとスジも通らん。〈コメート〉を降り立ち、沙織が『わたしの占いが外れるなんて……』と思ったところでスナイパーに頭をブチ抜かれるなんていうのも悪くなさそうだな。そういうことがここでちゃんとできないから、四巻目の最後がああもグチャグチャになるんだ。

そうだろう。予知能力者がストーリーに登場してメインキャラの誰かが死ぬという予知をしたならば、そのキャラクターは死なねばならない。死を免れる展開にするなら〈なぜ予知が外れたか〉を読む人間がちゃんと納得できるように話を作らなければならない――それで初めてその物語は〈本当におもしろいもの〉と言えるのだ。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之