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ヤマト航海日誌

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と、そのときである。突然、波動エンジンが唸りを上げ、船のあらゆる箇所にあるメーターというメーターがすべて光を放って針を振り切ったではないか。艦橋で島や南部が目を見張る。


「なんだ! 何が起きたというんだ!」

「船が大きくなっていきます! 全長三百メートルから、四百メートル、ああ! 五百メートルへ!」

「主砲も大きくなっていきます! 口径46センチから、64センチ、ああっ、88センチへ!」

「死んだ加藤が生き返りました!」

「えーっ? 一体、どうしてそんな?」

「古代だ!」と真田。「古代が、古代が成長したんだ! だから〈ヤマト〉が強くなった! 勝てる。これならあの戦艦に勝てるぞ!」


と、そういう話なんだろ。わかるって。宮崎勤の同類が作るようなアニメだもん。これが西崎の思想であり、麻原の教えなんだから、忠実に守って作れば鷹無しなアニメになるに決まってんじゃんか。ほんと練炭囲んで欲しいわ。

『2199』がもともとテレビアニメとして企画されたのは、話の構成を見れば一目瞭然だ。最初から二十分の話が二十六で出来ている。それを四つずつつないだものを七巻に分け、OVAでまずはリリースしたのはなぜか。

それもひと目でわかるってもんよな。会議室でどんな論議が交わされたか想像つくというもんだ。広告代理店にテレビ局、スポンサーにプロデューサーといった者らで構成された委員会。出来上がった六話目までを見て頭を抱えていた。


「これはいけない。とても地上波で流せません」

「最悪だ。だからボクは言ったろう。出渕裕に任せるのは間違いだと。デザインワークスだけにさせとくべきだったんだ」

「『ヤマト』のシリーズ構成で冥王星は重要です。冥王星の戦いにオールドファンが満足すればその後に視聴率は伸び、小中学生も見始めるでしょう。みな最後まで〈旅〉を見届けようとする。しかるに出渕裕のこれは……」

「ひどい。ひどいにもほどがある。『〈ヤマト〉が逆さで潜水艦』って、この冗談は一体なんだ。ソープランドで考えたのか?」

「さあ、それは知りませんが」

「他のどこで思いつくんだ、こんなことを! いかん、子供に見せられん。『ヤマト3』と同じ道をたどることになるだろうな。視聴率はガクガクと落ち、二度と回復することはない。プラモは売れず制作費は回収できない……」

「こんなものを放送したらね。さらに九話目を見てくださいよ。この脚本でそのままやるってぶっちゃん言って聞かないんですよ。間違いなくこれがトドメを刺しますね。オウムシンパは見るでしょうけど」

「で、その後にもっとひどくなるんだろ」

「そうなんですが、とにかくまず冥王星です。我々は出渕裕の独断専行を許してしまった。ガダルカナルの戦いはやっちゃいけない戦いだった。この〈ぶっちゃん冥王星〉はそれと同じことですよ。出渕裕の暴走をこうなる前に止められたなら、まだなんとか企画を救う道もあったのかもしれませんが、今となってはもう手遅れです。泥船とわかっていても乗り続ける他にない」

「って、この『劇場版』までか? 『スケベ人間の方舟』」

「後悔は今ここで済ませましょう。後はいかにして忘れるかです」

「黒字になりさえすればいい、か? だがもう地デジをハードディスクに録画する時代になったのに、誰がこんなのカネ出して見るんだ?」

「だから、地上波でやるのはやめて、OVAにするんですね。四話ずつそのままつないで……」

「見てからこれに布施を出すやついないだろうから、先にカネ取って見せるわけか。アニメだけならそれもよかろう。だがプラモはどうなるんだ。地上波でやらんことにはプラモ事業は大赤字だ。そっちが本当の商売なんだぞ」

「後で流せばいいでしょう。どのみち程度の問題ですよ。別にぶっちゃんでなくたって、誰がやっても同じなんじゃないですか。『ヤマト』なんかどうにもなるわけがない」

「それを言っちゃおしまいだぞ」

「そうですけど、しかしねえ。冥王星の戦いをカッコよく、キャラクターのひとりひとりに感情移入させられながら、どうなるどうなるとハラハラしながら見守るようなものなんて、どだいできると思いますか?」

「うーん」

「そもそも、変でしょ。波動砲一発で吹き飛ばせばいいんだもの。なのにこの『ぶっちゃんヤマト』。これを見たら頭のマトモな人間ならば誰だって、南部が言うのが正しいと思うに決まってる」

「それなんだよ。そこがいちばんまずいとボクも思うんだ」

「ねえ。ですから、波動砲を使わぬ理由を説得力のあるものにしなきゃいけないわけなんです。〈ヤマト〉が沈めば人類は終わり。そして旅を急がねばならぬ。なのに波動砲はダメって、そんなのメチャメチャですよ。しかし納得のいく理由なんて考えられると思いますか?」

「それだよなあ。ブヨブヨ生物がいるからなんてんじゃダメだろうし」

「だからできっこありません。艦橋クルーもどいつもこいつもまるでオウム幹部でしょ。感情移入できません。しかし何より古代が悪い。あれは上祐史浩だと、オールドファンの誰もが言う。でもって、ぶっちゃん、そのままやってる。ぶっちゃん自身が上祐史浩そのものだから」

「こういうのをいいと思う女もいると思うがね」

「〈スケベニンゲンで生まれた女〉、〈コトリアソビと書いてタカナシの女〉でしょう? そんなのにだけ好かれるキャラでどうすんですか。そんな女は、矢田亜希子や酒井法子と同じ道を行くだけですよ。松本智津夫や西崎義展の愛人になるだけですよ。DVDを買ってくれるのがいいファンだという考えでいちゃあいけない。そうでしょう? それでは一度の大赤字で再起不能の打撃を受ける。我々はミッドウェイで一度敗けたらもうおしまいの日本軍と同じなんだ。ぶっちゃんは、何がどうなろうとも責任取らずに逃げてしまえる〈提督〉だからいいですけどね。でもボク達は駆逐艦の艦長だ。〈西崎ホテル〉の勘定を代わりに払わされる立場だ。辻政信のデタラメ作戦で戦場に送られ、部下がバタバタ死んでいくのを見なきゃいけない現場将校なんだから。けれどそこらのバカで幼稚なヲタクどもは、ボクらのことなど知るもんじゃない。ぶっちゃん万歳! ハイル・ぶっちゃん! ミッドウェイで敗けたからってそれがなんでえ、まだ日本には〈大和〉があるさ! 〈大和〉が沈んだからってなんでえ、海底で300メートルに改造してドーンと浮上させればいいさ! ぶっちゃんならば必ずやってくれる――って、アニヲタはひとり残らず死ねと言うんだ。死ね! みんな死にやがれ! 出渕裕のファンなんか、豆腐の角に頭ぶつけて全員死ね!」

「まあまあまあ」
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之