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ヤマト航海日誌

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2015.9.13 父の西崎がカム・トゥ・ミー



柳田理科雄の『空想科学読本』でも、『ヤマト』はたびたびネタにされてる。ちょっと引用してみよう。あのシリーズの五冊目には、


   *


 筆者が高校生の頃、『宇宙戦艦ヤマト』が大ブームになった。地上に充満した放射能を除去する装置を求めて、往復29万6千光年の旅に出る物語。この作品によって「アニメは子供のもの」という雰囲気は一変。『ヤマト』は高校生以上の世代にも爆発的な人気を呼んだ。筆者はもちろん、友人たちも口々に礼賛したものだ。
「航海長の島が波動エンジンの始動に失敗するシーンが、実にリアルだ」
「乗務員が望郷の思いにとらわれて逃亡を図るなんて、リアルすぎる」
「砲の発射までに、弾を込め、照準を定める過程が描かれるとは、リアルの極致」
 評価の基準は、とにかく「リアル」。音楽や物語がいいという声もあったが、筆者と友人たちは興味を示さなかった。描写がリアルであればあるほど、男たちの熱い魂と戦争の悲しさが胸に迫り、宇宙への夢も現実味を帯びるような気がして、ひたすら「リアル」探しに熱中した。われらはまじめだったのだ。


   *


なんてことが書いてある。このマジメな少年達が七年後に大学を出て、入った会社に一週間で来なくなってしまうことになる。心配して電話すると当人が出て、


「あのですねえ、ボクは社運を賭けた企画の班長まかせてもらえると思ってお宅の会社入ったんですよ。そうでなくヒラからスタートだと言うんならヤだから辞めます」


で、ガチャン。彼は自分が古代進扱いされるとマジメに思い込んでいたのだ。

そんな〈コドモ〉が爆発的に現れたのが1980年代半ば。十年後に彼の〈七日だけ上司〉はオウム報道をテレビで見ていて、画面に覚えのある顔を見つけて、「あっ、アイツは!」と言うことになる。おれの従兄弟も何しろ勉強も運動もよくできたそうなので、噂によるとそのなんとか教団でかなり高い地位にいるとか。

怖いねえ。きっと、人類滅ぼして、自分達だけ生き延びたいとマジメに思ってるんだろうなあ。で、おっぱいとロボットだけの理想社会を作ろうとか。さすがにそこまでのことはないかな。山崎貴も出渕裕よりはなんぼかマシだもんな。

世の中、すべては程度の問題というものだ。おれもオタクはオタクだから、他人のことは実はあんまりとやかく言えん。『ヤマト』をマジメに見たやつの全部が全部カルトに走ったわけでなく、なかには塾の講師になって〈ヤマト〉のワープ航法はどうのとマジメ(?)に考察する本を書く人もいる。

〈島が波動エンジンの始動に失敗するシーン〉は当時としてはリアルだったかもしれないが、いま見直すとかなり間抜けだ。でもだからって山崎貴や出渕裕がやったようにとっぱらってしまっては、危機を脱して〈ヤマト〉が空に飛び上がるカタルシスが失くなってしまう。『ヤマト』はドラマや音楽が良かったから良かったのだ。当時に小学生だったおれにとってはそうだった。

けれども中学・高校生。十三歳から十八歳のニキビ坊主は、『ヤマト』のそういう部分は見ない。十九歳の出渕裕がティーンエイジの親玉となって、「リアル〜リアル〜」と『レット・イット・ビー』のフシで歌っていたものだからそれを信じてしまっていた。しょせんはガキ向けマンガだと年上のやつは言うけれど、父なる西崎が現れて知恵の言葉を告げるのさ、リアル〜。

リアル〜、リアル〜、リアル〜ったらリアル〜。ああなんとむなしい鵺の夜鳴き声であったろう。「これは大人の見れるものだ」と叫ぶ男の歳は十九だったのだ。

それより上は〈スタンレーの魔女〉のごとくに『ヤマト』を冷たく笑って見ていた。『ヤマト』は決して、高校より上の世代に人気を呼びはしていない。はたち以上はみな言ったのだ、「まあちょっとはおもしろいけど荒唐無稽もはなはだしいね。これは子供の見るもんだよ」と。

当たり前やん、あんなもん――『ヤマト』なんていい大人なら、「これはマジメに見てしまうとバカになるもの」とわかるってえの。大人どころか、小学生でもわかるってえの。

当時のおれはひおあきらのマンガを買って読みながらも「この人、たぶん二十代の大人だろうにいい歳こいてこんな本を描いて出すほど『ヤマト』に夢中になってんのかな、バカじゃねえの」と思ったものだ。画も内容も微妙だし――しかし今、あらためて考えるにひおあきらって、新谷かおるの別名かなんかか? あれはあれで『2199』や『実写ヤマト』よりは上だった気もするんだけどね。

まあとにかく、当時に『ヤマト』をマジメに見たのは中高生だけだった。彼らは『ヤマト』の部分ばかりに目をこらし、決して全体を見ることはなかった。その成れの果てが山崎貴と出渕裕で、何も成長することなしにオレ達ははたちどころか三十・四十・五十という歳になっても『ヤマト』を愛し続けたのだからあれを本当に大人が見れるリアルな作にリメイクできるとほざいてきたと――。

だが実際に出来たシロモノはどうだってえの。長年の積もり積もった鬱屈が痛々しく反映されてとても常人の見るに耐えない――やっぱりこのふたりの背には西崎義展がへばりついてて、「レット・イット・ビー」と歌ってるのか? そりゃ、なるようにしかならんだろうな。

とか言いながらこんなことをやってるおれがいちばん変だというのはむろんよくわかってますけどね。おれの場合他にやることもないだけで、『ヤマト』に対してコンプレックスは別にないはず……と思うのだけど、どうなんだろ。自分でもよくわかんないや。

とにかく、挨拶が遅れたけれど投稿を再開するしだいだ。ここを休んでいたあいだに、他のサイトに短いものを一篇書いて出している。おれが最近ちょっとしたトラブルに遭って、〈なるにまかせよ〉とはせずに事を片付けた顛末を文に起こしたものである。無料だからよかったら〈パブー〉のサイトを見てください。


(付記:その〈本〉は『図書館の本を濡らしたら』という題で公開している。次のURLからどうぞ)

http://p.booklog.jp/book/100045

(付記2:または、〈プロフィールを見る〉にリンクを貼ってあるのでそちらからどうぞ)



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之