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ヤマト航海日誌

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2015.9.6 母の言葉のレット・イット・ビー



前回はヤマトのヤの字もない話で申し訳がなかったですね。でもまるきり関係がないこともないでしょ。『永遠の0』の監督と言えばあのキムタクの『実写ヤマト』の山崎貴。あの映画が見ないでわかるシロモノと見ないでわかるシロモノなのは、見ないでわかることだったのだ。

それでも録画はしていたから、後で空戦場面だけ早送りして見たけれども、やっぱりねえ……いつもの山崎貴と言うか、例によってハリウッドの特撮映画を下手に真似ただけの映像で、あれでよく人のぶざまな着艦を見て笑えるもんだよな。どうせなら出渕裕を参謀に迎え、主役をおっぱい戦士にして零戦をロボットに変形させ、着艦に失敗して海に落ちても、


「え〜ん、お洋服が濡れちゃったよ〜着替え持ってきてないのに〜」


なんて言ってなぜか〈赤城〉に置いてあるメイド服を着る話に変えてやったらヲタクは大喜びだろうに。戦争ナメた映画であるのに別に変わりがあるじゃなし。

だいたい、そんなに特攻と大西瀧治郎が好きならまず重慶爆撃から描きやがれ……なんて言ってもそんなの右翼の〈正しい歴史の本〉には載ってすらいないんだから百田尚樹が知るわけもないのか。あの戦争の映画なんて、ほんとはみんな『ザ・コクピット』の『爆裂弾道交差点』みたいに終わるべきなんだろうに……。

なんてなことが書きたいんじゃなかったな。一体なんの話だっけ。そうそう、山崎貴にメイド服を着せ海に落とそうという話だった。

山崎貴という映画屋はなんなんだろうねえ……あいつが撮るもの見るたんびに、こんなものを肯定してるといつか日本はズブズブと海に沈んでいっちゃうゾという気におれはさせられてきたが、だからと言って別にどうでもいいやと言うか、まだこれでも飽きもせず『八つ墓村』撮ってるやつよりゃマシかと言うか、そんなに悪く言う気はしない監督だよなあ。『実写ヤマト』も悪く言おうと思ったらいくらでも悪く言える映画のはずなんだけど、なんだろうね、最後に宇宙でキムタクがハジケたときにエアロスミスが、


「ママ〜ッ!」


お母さん、覚えていますか。ええ、77年ですよ。ぼくが小学三年の夏です。『劇場版ヤマト』を見に連れて行ってくれたとき、あなたは「難しい話になってるかもしれないよ」と言いましたね。対してぼくは「実写になってるのかな」と答えました。『ウルトラマン』の本で見て、〈実写〉という言葉を知っていたのです。結局のところあの日見たのは、〈映画〉とは名ばかりのテレビマンガのダイジェストでしたが。

でもあのとき、本編前の予告で見たのが、ぼくの記憶では確か『人間の証明』でした。麦わら帽子が宙を飛んで、「マイ・ストローハット〜」なんて歌が流れているという。

それから次の『さらば』でも『999』でも『永遠に』でも、それどころか『東映まんがまつり』とか『ドラえもん のび太の恐竜』見に行ったときでも、当時の予告編と言ったら『悪魔が来りて笛を吹く』とか『獄門島』とか『野性の証明』なんてのばっかで、「お父さん、怖いよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」とか「鵺の鳴く夜は恐ろしい」とか言って、なぜかバックにビートルズの『レット・イット・ビー』が流れるという……。で、おまけに『エイリアン』が「宇宙ではあなたの悲鳴は決して聞こえない」で、『サスペリア』が「決してひとりでは見ないでください」でした。一体、当時の映画館は、アニメを見に来る子供を怖がらせて何がおもしろかったのでしょうね。

お母さん、平成の『実写ヤマト』はとってもとってもわかりやすい映画になってたんですが、それがいいことか悪いことかぼくにはよくわからないのですよ。それにほんとに、あれはどうでもいいと言うか……。

でも、やっぱりエアロスミスはいくらなんでもまずくねえかな。誰かやめようと言うやつはいなかったのでしょうかね。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之