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ヤマト航海日誌

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2015.8.30 着陸を見ればすべてがわかる



このあいだ、映画『永遠の0』ってえのがテレビ地上波放送されて、それで初めてちょっと見たけど、あかんねえ……どうせロクなもんじゃないだろとは思ってたけどさ。

『飛行機の上手下手は着陸を見ろ。それですべてがわかる』って、よく言うけど本当だね。始まってしばらくすると〈零〉が空母に続々と着艦する場面になって、「ほほう」と身を乗り出す気になるがすぐダメとわかる。

何がいけないかと言うと、空母の甲板作業員らが、初めて船に降りるらしい零戦乗りらの着艦を「ヘタだ」と言ってゲラゲラ笑って見ているのだ。そんなことがあるわけないだろ! ハラハラして見守らなけりゃ嘘だろうが!

今のアメリカ軍空母は甲板に線が斜(はす)に引いてあるが、あれは飛行機を安全に着艦させるための工夫だ。パイロットは危なそうだなと感じたら、無理に着艦するよりも加速して一度上を飛び越してから、あらためてやり直すよう教えられる。そのため機をタスキがけに着艦させて、降りた機体をすぐ脇にどけ、後続の邪魔にならないようにするのだ。

空母の着艦で安全がどれだけ大事かわかるでしょ。無理に降りて失敗したら、そいつは死ぬし一億ドルの機はパーになるし、積荷や客や情報があればそれもダメにしてしまうし、船を傷つけ上に載っているものを壊し、甲板員を何十人も死んだりケガさせかねないのだ。そしてその一機のために、続く十機二十機が着艦できずに燃料が尽きて海に落ちることになったり、やらねばならぬ作戦ができなくなったりすることにもなる。

まして昔の黒板消し空母。あんなものに降りなきゃいけないパイロットの気持ちになってみろと言いたい。にしても、当時の空母の場合、一機降ろしてはリフトで下に仕舞い込み、甲板を全部開けてまた一機――という具合にゆっくり着艦させるのがふつうで、あの映画でやったみたいに船の真ん中に網張っといて飛行機を前の方に並べ置き、後ろ半分だけ開けて「ほらほらガンガン降りてこーい!」なんてやるのは緊急時だけのやり方だったはずだけどな。だってさあ、わかるでしょ。網を破って機が前に突っ込んだなら何十機も一度に全部オシャカになるのが。

それにもうひとつ怖いのが、空母のケツに突っ込むことだ。パイロットは間違いなく死に、それで三年の養成がオジャン――。

あのガンガン収容はその危険を単機収容の何倍も高めることになるので、いきなり初手からやらせちゃいけない。今みたいなシュミレーターなどなかったんだから、まず一機ずつ、一機ずつ、最初は空母に近づくことから始め、甲板に接地だけして降りずに飛び立つ訓練を何度もしてからようやく着艦――という具合に段階を踏んでやるもんだった。もっとも最後のレイテ海戦の頃にはそんな余裕はなくなって、経験の浅いパイロットに無理な着艦訓練させて作戦前から多大な犠牲を出してたそうだが……。

そんなことまで知らなくても、あの場面、ふつう危険とわかりそうなもんじゃねえのか? 着艦は一歩間違えば大惨事と、どんなバカでもわかるはずとおれは思っていたのだけれど、違うのか? そんな人間は日本でおれひとりだけで、てんで狂った考えを持った変なやつということになるのか? 空母に降りるパイロットの恐怖やプレッシャーなんて、想像する必要はない? 兵隊なんてショッカーの戦闘員みたいなもんで、そもそも人格ありゃしないのさ、とか?

そうなのかもしれんなあ。あの映画の零戦乗りらは誰もうまくは着艦できず、ぶざまにやっとなんとかという調子で空母に降りる。それを指差し嘲笑するのがあれを撮ったスタッフで、どうやら今の日本人大多数であるらしい。

しかしあれはたとえどんなに不格好でも、確実に降りているだけ驚くべき技倆と呼ぶべきもののはずだ。どうかひとりも事故を起こさず全機着艦してくれと祈る想いで見ねばならないはずの状況じゃねえのかよ。それをなんで、自分で操縦できもしないやつらが笑って見てやがるんだ?

で、ただひとり主役の岡田准一だけがきれいに着艦してみせて、「マニュアル通りやっただけです」なんてことを言いやがる。この時点でムカついておれはテレビを消したのだが、なんだろうね。やっぱ今どきの人間は、あれ見て「そうか、マニュアルさえ読めばオレもエースパイロットになれるんだ」と思うわけか? どうも原作本自体、『これを読めば君もスーパー零戦乗り! さあグラマンを撃ち墜として最後はカミカゼで死のう!』ってな作りのもので、それで売れているらしいが……。

どんなもんだろ、と思ってちょっと、図書館でパラパラめくってみたよ、原作。そしたら、うーん、ははは、まったく、まいっちゃうよね。そりゃまあ、あれがゲームのフライトシュミレーターなら、失敗して何がどうなったとしても笑って見ていいわけだ。百田尚樹とかいうのはさぞかしそんなのやり込んで、最高点のワイヤーにいつでもフックをかけて着艦決められるようになり、それまでに百回〈死んだ〉ことなんか忘れてあれを書いたのに違いないとおれは思っちまったけどさ。

きっと航空自衛隊には、あの本持ってやって来るやつがたくさんいるんでしょうね。「オレを〈F-15〉に乗せろーっ! ヘナチョコどもにオレの操縦見せてやる!」なんて言ってさ。

頼むからアニメじゃヤラレ役だからって、プロの空自パイロットがみんなヘボだと決め付けるのはやめようよとおれは言いたい。せめて税金泥棒と呼ぶくらいにしてはどうかね。

飛行機ものは着陸を見よう。それが良ければ全部いい。ダメなもんは全部ダメ。そういうもんと決まってる。百田尚樹なんて作家はそんなにてめえが完璧人間のつもりでいるならセスナにでも乗せてやり、いきなり着陸できるのかやらせてみたらどうだろうね。それで死んでもそのときは笑って見てもいいんじゃないかな。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之