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ヤマト航海日誌

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平野画にあった作品の悲劇性を予感させるものがない。それじゃあかんだろう。いい歳をした人間がもう買えないだけじゃなく、若いやつもこれじゃ読まんし読んでも『違う』と思うだけだ。

この日誌も開けて読むやつの気が知れないが、〈いちげん〉の客を断るためにわざと最初はつまらなくして、紹介欄には何も書かず、ウツボのコメントもそのまんま。同じ理由で人にスルーさせるため地味な表紙にしてるのだからこれはこれでいいのである。なのに毎日〈ふり〉の客が、どこで噂を聞いたものやら集まってくる。

まるでなんかの小説に出てくる〈カウンター・ミラー〉ってパブみたいだ。しかもどうやら最近どこかで〈状況の急激な変化〉でもあったんではないでしょうか。振り向いてみるにおれをつけるストーカーどもの何割かが慌てている感じがする。

このサイトでおれがトップを独走していた今年二月の頃だって〈いちげんさん〉は素通りしていた。入ってくるのは常連か〈ふり〉の客だから、そいつらが何も言わなくたって何かがあれば『これは何かあったな』とわかる。ドアの向こうでデバッグ(虫取り)でもやってるような音が聞こえる。

〈楽天コボ〉におれがおれの『コート・イン・ジ・アクト』、長いからもう「コトアク」と呼ぼう、『コトアク』に値段を付けて出したのはもうみんなが知ってるだろう。min305さんが全話買ったことも知っている。

それは君らの動きを見ていて感じられる。けれども他に買った者がいるのは無論知らないだろう。おれもテッキリ、最初に買うのはmin305さんになるとばかり思っていたので驚いたんだが、実はそれより前にいたんだ。

それもふたりね。『コトアク』の〈1〉と〈2〉を出したところで二話まとめて買ってく者がひとりいて、そして〈3〉を出したところで、それは買わずに〈1〉と〈2〉までを買ってく者がひとりいた。

そんな話が信じられるか、作ってるだろ、と君は思うかもしれないが、でも本当のことなんだよ。嘘と思うなら思ってりゃいいけど。『コート・イン・ジ・アクト(第一話)』と『通り魔が町にやってくる』。このふたつを最後まで読むことのできる人間がmin305さんの他にふたりいるんだ。

おれも最初はどういうことかと思ったが、その後を見るにこれはあれだな。このふたりはたぶん市橋達也じゃないかな。ふたりもいればうちどちらかは市橋達也なんじゃないかな。

本気で期待はしていなかった。けれどもしかし、実は待ってた。市橋達也が来てくれるのをね。君らのように美人の後をただつけるだけのストーカーと違う。「これは」と見ればすぐ行動を起こすやつだ。ギャビン・ライアルの『本番台本』とか、加納一郎の『死体がゆっくりやってくる』といったもうメチャメチャにおもしろいのにあまり人に知られずに、長く絶版になってるものを1ページ1ページ、カメラで撮るかスキャナに掛けて文字認識させ、題名とキャラの名だけを変えてウェブに出す。一度に2ページくらいずつならそうたいした手間じゃない。

そういうことをやってるやつだ。で、もちろんすぐに通報されてしまって「バレないと思ったのか?」と言われている。

だが幸いに実名を暴かれるところまではされずに済んで、ふたつのことを学んでいる。ひとつは、バレても大丈夫ということ。もうひとつは、次はもっとうまくやらねばならないということ。

それが市橋達也だ。このふたりはそれじゃないのか。雉密猟者が〈楽天コボ〉で網を張って待ち構えていた。そこにおれがケーンと鳴いて飛び込んだんじゃないだろうか。

そして山本玲でもある。加藤三郎という男が〈ゼロ〉という名のストラディバリウスを持っていれば、ヴァイオリンなど触ったこともないくせをしてそれを盗む。弦に弓を当てさえすれば、手がひとりでに動き出して弾けると思い込んでいる。そこに古代進が出てきて「いい腕だ」と言ってくれ、それは今日からキミのものとしてくれる。で、加藤には、「お前は明日からヴィオラを弾いてろ」。

と、そういうことになると本気で考えやらかす人間。それが〈ぶっちゃん山本玲〉だ。『2199』はぶっちゃんアニメであるがために事がそのように運んでくれるし、〈京アニ〉が作るアニメもみなそうだった。だからそれ見ておかしな勘違いをする〈ぶっちゃん古代〉まんまのやつが現れて、ビルに火をつけられた。

夢に逆襲されたのだ。〈京アニ〉が作るアニメって、そのどれにも必ずひとりは、《小鳥遊》と書いてタカナシと読むキャラがいたんだろ。芸がないと思うやつはいなかったのか。見ていたもんの中にもひとりもいなかったのか。

そんなの、山岡士郎のように、母の旧姓名乗りゃええやんと思うやつとかいなかったのか。〈鷹無〉と変えるくらいなら役所も簡単に認めてくれるくらいのことも知らんのかとか、思うやつはいないのか。

それどころか、おれも中学と高校で卒業記念のハンコ作るとき、先生に「お前、ほんとは〈嶋田〉じゃないよな。もしそうなら普段は《島田》でいいんだけど、この紙にだけは《嶋田》と書いて」と言われて「いいえ、おれは本当にこの字だから大丈夫です」と応えたりしているが(横のプロフィール画像を見よ)、だから改姓なんかせずとも、日本社会で〈鷹無〉の字を日常に使っていて何も問題は起きない。学校の入学願書にも、就職の履歴書にもそう書いて構わない。《小鳥遊》の印章を見て初めて人は「何これ?」と言うのだ。おれの場合はハンコだけがもし《嶋田》だとしても、そういうものとわかってるので誰も気にしないがね。

〈小鳥遊〉なんて家に生まれた人間がほんとにいるならそうしてんじゃないのか? そんなことも知らないし気づくやつがいないのか?

音無響子に音無姓をいつまでも名乗らなくていいんだよ、キミは死んでないのじゃない、生きてるんだと言うようなキャラクターが出てくるアニメをひとつでも、〈京アニ〉っていう会社は遺してるのか。どうなんだ。小鳥遊という名の萌え美少女がエンドレスにぶうぶうと自分の苗字の文句を並べるだけのまったく同じ話を、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も飽きることなく作っていた。その会社がしていたことはただそれだけなんじゃないのか。

だったらまあ、それを見ているやつの中に妙な錯覚を起こすやつが出るのはむしろ当然だよ。放火されてもしょうがないよ。因果応報というものなんで、みんな死んでもたいした人的損失とは言えないんじゃないかしらん。むしろ死んだ方がいい連中が、死んでくれたことにならないかしら。

だから『マイノリティ・リポート』って映画のさ、〈殺人予知システム〉なんていうやつがもし実現したとしても、故殺がなくなるなんてことはないし「廃止廃止」と短絡的に叫ぶ人間がいたらバカだとおれは考えてるんだけど、現実はあのくだらない映画とか、有川浩がリアルと思って書いてる小説のようにはいかない。盗みによって才能が目覚めて人に認められ、美少女に囲まれる、なんてな笹本の劣化コピーで成り立っていたような会社は、〈壊し屋のレッドバグ〉に吹き飛ばされて当然だ。それは天の罰なのだ。しかし誰ひとり、ヲタクは学んじゃいないだろう。次はもっと他人のものをうまく盗もうと思うだけ。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之