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ヤマト航海日誌

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2019.7.13 キスとビンタとオカマのドン



前回に引き続いて『ヴィナス戦記』の話である。先に書いた通りにおれは、あの映画のVHSテープからおれが自分でDVDにダビングしたものを持っている。他人に見せないぶんには別に持っていたっていいはずだ。

ここに再三書いたけれども、おれが何度も繰り返し見たと言ったら『ミッドナイト・ラン』だ。何十回見たかわからぬこれを最近、また何度かケーブルTVで字幕版や吹替違いをやってくれてそのたび見たけど、見るたびに、『おれの人生に一本』と言えばこれだと確認する。

あれを初めて見たのが1989年1月で、『ヴィナス戦記』はその二ヵ月後。で、繰り返し見たけれど、これはせいぜい七、八回かな。見るたび、『うーん、なんだかなあ。まあいいとこはいいけど』と確認する。

それもアナログ時代のことで、地デジとCS何十チャンネル、液晶ハイビジョンテレビとハードディスクレコーダーの生活になると、捨てはしないがご無沙汰していた。最後に見たのは『クラップ・ゲーム・フェノミナン』で主役にローラーゲームをやらせたときに、それを書くため初めのとこだけちょっと再生したもんだな。あまり参考にならなかったが。

前回のログも別に見直さないで書いたが、あの後で全部通して久しぶりに見てみたよ。で、うーん、なんだかなあ。いいところはやはりいいけど……。

やはりダメなところがなあ。でも、見たいな、HDで。HDでこれを見ないうちは死ねん。そう思わせる映画ではあるな。HDでこれを見ないうちは死ねんと思うような映画じゃないが、HDでこれを見ないうちは死ねん。

そう思わせる映画ではある。だから、いいのよ。いいところは。いいところはすごくいいのよ。

しかしダメなところがダメなの。『「ヴィナス戦記」は何が悪かったんだろう。まあいろいろと悪かったけど』と当時の関係者はみんな考えてると思うが、まず第一にタイトルが悪い。日本人には発音できない。声優などにはVの音をちゃんと出させているのかもしれないが、おれには「びなす」としか聞こえない。

口でも「びなす」としか言えない。ヴァイオリンも「ばいおりん」としか言えない。前回のログにおれは基本なんでもすぐうまくなると書いたけれども外国語は話せないし、楽器もからっきしダメだ。この日誌や小説を書くにもいちばん時間がかかるのがキーボードでの打ち込み作業で、ここまでの何百字かを打つにもさんざん叩き間違いをし、肩はこるし眼は疲れるし、どんだけやっても上達するということがない。

だから結構しんどい思いでこれを書いてるんですよ。自分で打つんでなけりゃあね、ひょっとすると凄い早さで『敵中』なんか書き上げちゃうのかもしれないが、えとなんだっけ、『びなす戦記』か。『アルジャーノンに花束を』って小説をおれが知ったのもあの映画を見た頃だったが、中にその主人公がピアノを楽々マスターする場面なんかが書かれてやがって、嘘つけ、そんなことがあるか、と思ったよな。だいたい、頭が良くなったからって、なんでどうして協奏曲をひとりで弾くことができるんだ、とか。

タイトル以外で、『びなす戦記』は一体何が悪かったのか。

数え上げたらキリがないが、そもそも〈びなす〉だ。金星。そこに人類が移民してると。なんでまた。原作マンガの1ページ目に氷の惑星うんぬんだとか書いてある。

『まさか逆回りとは思わなかった』なんて言うけど、これをそもそもいいアイデアと思うところが理解できない。

ほんとのハードSFじゃねえよな。仮にこれを認めるとしても、十年くらいで大気が呼吸可能になって、移民が始まるなんてまさか。でかい氷がぶつかったから、溶岩の海が波打つ摂氏四百ウン十度の星が冷える。なんて、そんなことが……。

あるか、と思うが、まあいい。おれも『ソラリス』なんて、もっとわけがわからないのは同じだ。『びなす』はまだ、そこはええやん。自転が逆まわりだったという、そこは痛いがなんとかしよう。

おれがなんとかしてやろう。ええと、氷がぶつかって、星が冷えて空気が吸えるようになるのだ。十年でね。自転も24時間になっちまったということにして、それでもしかし、全土に住めることにはならない。

太陽から近いがゆえに、極地だけ。南北それぞれ60度くらいよりも高緯度が人間が住める気温となって、移民してるものとする。50度くらいでコーヒーやゴムの木が育つ。

いや、育たない。金星の土に養分はなく、雑草すら生えないのだ。と、そういう設定にして、しかし海には準惑星が運んできた有機物が含まれていて、これをもとに40度のお湯の中でも光合成する藻が育てられており、人間の吸う酸素を作り出している。赤道付近の海はほとんど熱湯であり、厚い雲が形成されて常に湯の雨が降っている。

と。既に『大丈夫か?』と自分で思わないでもないが、元はと言えば安彦のやつが悪いのだ。あいつのしょーもない設定を、おれがちょっとは見られるもんに直してやったというだけだ。

それでいいだろ。ええ? 『ソラリス』なんてもん、読んでるやつは本当にわけがわかって読んでんのかよ。〈SF者〉なんて知ったかぶってはいても、協奏曲とはどんな曲かも知らねえ人間ばっかなんじゃねえのかよ。

科学を知ってるつもりでいても、プロの楽器演奏家は、長く厳しい訓練によって肩から指先までの筋肉がムダなく素早く動くように鍛え上げられている。野球選手がボールを肩で投げるように、ミュージシャンは肩で楽器を演奏する。なんてなことさえ知らん人間ばかりじゃねえの。だからチャーリイ・ゴードンが、一時間の曲を一秒で聞いてそれより優れた曲を二分で作曲するような文ばかりの連続を読んでも変だと思わねえんじゃねえの。

そういうのを知ったかぶりというのであって、おれも知ったかぶりだから金星の設定はこれでいいんだ、まあとりあえず。で、話を直すとして、おれが直すならどうするか。

まあやっぱり、いちばん悪いのは主役だろう。〈笹本ヒロ〉はまったく主役と呼ぶことができない。戦闘バイクに乗ることになるのはタイマン勝負に敗けたがための仕方なくでしかないし、敵に勝つのも逃げてるうちに敵の方が自分から墓穴を掘って落ちてくからというだけだ。敵は「許さん」などと言ってヒロを追いかけ自滅するが、一体どうして〈ガンダム〉でなく〈ジム〉の一体に過ぎないヒロをドズルでギレンみたいなやつがムキになって殺ろうとするのか理解できない。こだわり過ぎだ。「侮(あなど)れんな」と口で言うけど、『2199』の山本を誰も彼もが「いい腕」と口で言うけど言うだけで具体的なものがないのと同じ。


「こんな映画はうそっぱちだ。むりやり辻褄をあわせている。脚本家か監督か、だれだか知らないが、プロットにそぐわないものを話の中に入れたがるからだ。だから不自然なんだ」


この話の結末にはそう言うしかなくなってしまう。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之