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ヤマト航海日誌

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さて、ではおれが直すならばどうするか――まあでも既に『敵中』が、『ヤマト』のリメイクであるとともにおれが直したヒロの物語でもあると言っていいようなものとも思うが、ヒロを直すならまず声、いや、何をどうしていつもイライラしているかがわからない――と、思っていると始まって38分も経ったところでようやくこんなことを言うところだろう。ヒロイン・マギーの家で額装された写真を見つけ、

   *

「これ……」

「ああそれ? お父さんが以前に手掛けたんだって。優良事業で表彰されたのよ」

「オレんちの農園だよ」

「え?」

「ニュームサシだろ? 間違いないよ」

「驚いたあ。そんな関係があったなんて奇遇ね」

 とマギー。けれどもヒロはその額を脇に放り出してしまう。

「ちょっと、何よ」

「くだらないよ」

「また! ヒロったら!」

「だって、そうなんだよ! くだらないものは、くだらないんだ! 農場で作るみどり藻なんて、てんで情けないのさ。熱月(ねつげつ)には萎れて、闇月(やみつき)には寒さでやられちまって、また次の年はやり直しだ。役人は計画が進んでりゃ、それでいいのさ。農園主は儲かりさえすれば、後はどうだっていいんだ。やがてびなすは一面みどりになるなんて、そんなのうそっぱちだよ! 戦争だってそうだ。まっとうな理由も敵も味方もないよ。この傷! アフロディアの兵隊にやられたんだぜ!」

 この長いセリフの間もずっと、おれの席の後ろのガキが「ピキュン、ピキュン、ボボン、ガガーン」とつぶやき続けていた。マギー、ヒロに抱きつく。

「イヤだ、もうイヤ、そんな話……」

「ごめんな」
 
  *

と言ってキス……っておいコラ。待たんかい。なんでそこで女が抱きつく。なんでそこでキスなんだ。ほんと最低の脚本だな。『実写ヤマト』で古代とユキが抱き合うところみてえだな。ラブシーンに持ってくことで問題をウヤムヤにしようとするな。

だからこの『びなす戦記』ってえ〈シャシン〉はダメなんだよ。そこだろ? そこに、イライラの根があるんだろ? 「やがてびなすは一面みどりになるなんて」という、プロット上いちばん重要なことを100分間の映画が39分も経ったところでようやく主役が言ったところで、キスで話を終わらせるから、話が終わりになるんだろうが。後の61分間にまっとうなものがないままなんだろうが。

ほんとに『妖精作戦』の、街が戦場である状態で榊とノブのふたりだけ、「時間がこのまま止まっちゃったら、いいな」っていう感じだが、脚本もさることながら、演出が……いかにも昭和の『神田川』で『いちご白書をもう一度』な演出が……これが〈シャシン〉だ。日本人は映画と言うとすぐ〈シャシン〉にしようとする。ボケが。そんなもん、クソだ。お前ら、二度と脚本やら、監督やらやろうとするな。

『びなす戦記』はいろんなところがいろいろ悪いが、マギーという女が良くない。『ソラリス』という小説のハリーという女とか、『アルジャーノン』のアリス・キニアンという女のように良くない。『ソラリス』のハリー。19だって。わ、何それ。というくらいに良くない。ソラリスという星がどうのとか、びなすという星がどうのとか、どうでもいいや。ボクと彼女とふたりだけの〈サイド6〉に行けるなら、という、話がそういう話になるから絶対にいちゃいけない女ね。『ヤマト』の森雪がもともとそうであるような。

この女は要らんから要らん。となると次にミランダという女だが、これも良くない。『積木くずし』とか『スケバン刑事』に出てくる80年代スケバン。要らん。スーザン・ソマーズという女がヒロに、

   *

「あんたって卑怯よヒロ! 訳知りふうなこと言って、ただウィルみたいに戦場に行って戦うのが怖いだけなんじゃない!」

「違う!」

「違わない! 何よ、一回ぐらい兵隊に撃たれたからっていじけきって、あんたなんか男じゃ――」

 と言いかけたところに現れバチンと頬を張り、

「お節介なんだよ。ヒロが男かそうじゃないか、いつあんたに決めてくれって頼んだ。あんたなんかに何がわかるのさ。昨日や今日にここへ来たばっかりで!」

   *

と、こうやってまた問題をウヤムヤにする。こんな調子でキスや暴力で話が終わりになるもんだから、金星のどこに問題があるかが見てる観客の目にまったく見えないのだ。ダメ人間がほんとのことを言われて怒ってるようにしか見えないのはどういうわけか。

腐ったミカンめ。スケバンは失せろ。というわけでスーザン・ソマーズ……ああ、いちばん良くない女が残ってしまった。完全な笹本キャラでああ言えば上祐史子が残ってしまった。

スーザン・ソマーズ。人が死ぬのを喜んでカメラに撮っていたくせに、その映像が使えないと言われると「人が死んでるんですよ」とデスクに食ってかかる女。映像が使えないのはお前の「うわー、いいアングル。撃てーっ! さすがあ、迫力違うわねえ」なんて声が入っているからじゃねえのか。どう、こいつは特撮じゃないわよ。アタシが眼で見たナマの虐殺。〈アフロディア〉とは金星の赤道部にある高地の名前。アタシはそこで、バタバタと人が死ぬのを見てきたの。うひひひひ……。

という、そんな女が残ってしまった。やれやれ……だがいい。こいつだ。こいつを直そう。この女を直せばおれの『金星戦記』が出来る。

というわけで、やってみよう。話はスーザン・ソマーズが、ゲームライダーのヒロの前に現れるところから始まる。


「ハーイ、わたし、インデペンデント通信の記者。あなたがこのチームのポイントゲッター?」

「なんなの、あんた。ウチみたいなB級リーグになんの用だよ」

「賭場では受ける、とか聞いたから。なんでそんなことしてるの。義手と義足の人間になって、そのローンを一生払って生きたいわけ?」

「あんた、ケンカ売ってんのか。だいたい女がひとりでこんな……」

「まーまー、話聞かせてよ。そのバイク、ガソリンで走るのよね。地球じゃみんな今は電気モーターだけど」

「ガソリンじゃない。みどり藻から採れる油さ」

「みどりも?」

「『びなすの海は酸素農場』なんて言うけど、本当はむしろ精油工場なんだ。種から油を搾っていて、これがいい燃料になる。このバイクもそれで走る」

「農園では土壌改変もしてるんでしょう。あなたはそこで働こうとか思わないの?」

「はん、まったく思わないね」

「賭けのネタよりいいんじゃないの。やがてヴィナス(白人なので発音できる)を一面みどりの星に、とか……」

「そんなの嘘っぱちさ。あんた、ほんとは戦争を撮りに来たんじゃないのか。アテが外れておれを撮ろうとしてんじゃないのか?」

「まさか、そんな……」

「いーや、顔に書いてあるね。イシュタルにここまで来てほしいんだろう。街にもむしろ来てほしいと思ってるやつがたくさんいる。こっちの軍隊なんか敗けろと思ってるのが……」

「複雑なのね。じゃああなたはどんなクチの……」

「だからそんな話は迂闊に人に話すもんじゃないんだ。警察もここじゃヤクザなんだから」

作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之