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ヤマト航海日誌

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2015.3.18 小説:グリコ・森永



世の中には懲りないやつがいるもので、刑務所に出たり入ったり繰り返す。檻の中でダチを作って泥棒談義に明け暮れる。その日もまたいつものように、


「ワシらもうじき出所やな。娑婆でなんぞデッカいことやりたいな」

「せやなあ。グリコなんかどうや」

「グリコ? グリコてなんやねん。キャラメル食うてどないするんや」

「ちゃうて。看板あるやんか。グリコの会社どうにかしていてこましたら、あれがテレビにバーンと出るで。ほんで話でこなったら、ハリウッドがあれで映画撮ろうとするで。主演はまあ、高倉健やな。悪役は松田優作なんかええな。アメリカのスターとガーンと対決するんや。世界中の映画館に〈三百メートル〉ドバンと映るで。見るやつみんな腰抜かすでえ」

「おーええやん。オモロイやんか」

「せやろ? 大阪にグリコの看板在りじゃ! 雷門や金閣寺に観光客取られとってええのんか。あれをみんなに見に来させたろ! ワシらで大阪に人呼んだろ!」

「それや! それや! いっちょいったろ! 一発デッカい花火打ち上げたろやないけ!」


それはそんなくだらない思いつきの犯罪だった。彼らは極悪デスラーでなく、どこか気のいい海賊キャプテン・ハーロックだった。そんな者達であるために手並はプロで手口は周到。だが計画そのものは、杜撰で成り行きまかせだった。

それでよかった。うまくいった。行き過ぎたと言えるだろう。権力はこれをテロと受け止めた。マスコミは『強い憎悪を持つ者だ』と書き立てた。大衆は地震のように社会を壊し竜巻のように薙ぎ払う津波のような存在が現れたと信じ込んだ。〈三百メートルの男〉はあまりに間抜けなために、ニュースの画(え)にはならなかった。

男達の思惑は外れた。なんでやねん、とネオンを見上げた。なんで誰もこれを見んのや。グリコの事件でなんでグリコの看板見んのや。こないな話あるかいな。

だが同時に気がついた。ここで看板見とってもマッポはバンもかけよらん。ブン屋なんぞひとりもおらん。道行く人は目をそらしてく。今この国でこのネオンは、〈社会人〉はまともに見てはいかんもんになったんや。

事件はマジメに考えなあかんもんなんやから、大阪弁はものを考える言葉やない。ナニワの語で組み立てられた犯罪は標準語で解かれはせん。せやから、こいつの下におれば、ワシらは絶対安全なんや。



 グリコの看板背負うとれば、ワシらは透明人間になる。



そうして事件は別の方向に転がりだした。彼らは社会が彼らに望む邪悪を演じねばならなくなった。ただのドロンジョ一味とバレたらすぐにも尻尾を掴まれかねない。しかし魔のギャラクターと世に思わせておく限り、決して捕まることはない。

そこで森永に目を付けた。しかし実はどこでもよかった。人々にありもしない尻尾を追わす囮にすぎなかったのだから。

そしてまたもうまくいった。うまくいくにも程があった。あまりに、あまりに、うまく行き過ぎてしまったために、結果に彼らは悲鳴を上げた。

その〈遊星爆弾〉は、不発になるよう信管を殺したうえで海に落としただけだったのだ。水柱が立ち上がればそれで充分だったのだ。なのに人類は恐慌をきたし、地に深く穴を掘りその土でもって海を埋め、中に潜っていってしまった。こんなことができるなんてあれは悪魔だ、人じゃないと泣きながら。

赤くなってしまった地球に男達は茫然と立った。待ってや!と叫びたかった。ワシらちょいと〈怪人〉をやってみたかっただけやのに、なんでシャレがわからんのや。アホ違うんか、おんどれら――。

だが、それでも高らかに、笑ってみせるしかなかったのだ。涙を隠して彼らは言った、「そうだ、俺達はガミラスだ」と。


   *


――と、無理に『ヤマト』の話にしたけど、やっぱりぜんぜん関係ねえなあ。ロマンはあると思うけどね。まさかと思うが、もし本当にこれが事件の真相だったりしたら、誰がなんと言おうともおれはこいつらを尊敬するね。最高だよ。立派だよ。もう誰にもできねえよ。最後はちっとまずかったけどなあ。でもこいつらが悪いんじゃないよ。いや、悪いか。悪いけどさ。

ところでもし、こんな調子のお話が何か読みたかったら、ケータイ小説サイト〈星の砂〉(hoshi-suna.jp)に出してるおれの『銀行強盗のしかた教えます』『貴方と私の獄中結婚』なんていうのがおもしろいかもしれないよ。もしよかったら見たってや。

 
(付記:『銀行強盗――』『貴方と私の――』の二篇は〈星の砂〉から削除した。現在は電子書籍パブーでそれぞれ十円で販売中だが、これも値上げする予定である。もし購入する気があれば今のうちだ。URLは次の通り)

http://p.booklog.jp/users/shimadanobuyuki

(付記2:これも削除した。またそのうち別のところに出すかもしれない)

(付記3:冒頭部だけ公開した。〈プロフィールを見る〉にリンクを貼っているのでそちらからどうぞ)



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之