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ヤマト航海日誌

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2015.1.16 マゼラン星雲に受ける感銘



また当分休むのだけど、その前にちょっと書いとこうかな。第二部を書き始めたのはたまたま手にした古雑誌でマゼラン星雲の記事を読んだからだった。『ヤマト教室』の最初の回に書いたやつだ。マゼランが〈天の南極〉近くにあるのはおれも前から知ってたんだが、天の河銀河の周りをまわる衛星銀河だというのはその記事を見て初めて知った。

そのときは「へえ」と思っただけだったが、しばらくして気づいたわけだ。そうか、マゼランが南の海で見たからマゼラン星雲なんだな、と。南の天にある星雲は地球が丸い証拠なのか。

それから思った。『ヤマト』の設定の基礎を立て、目指す星の名を〈イスカンダル〉としたのは豊田有恒だが、後からそれをマゼラン雲にあるとしたのは松本零士であるという。距離を〈十四万八千光年〉としたのは氏が子供の頃に読んで感銘を受けた本にそう書かれていたからだ、とか――そりゃ、一体どういう本で、どう感銘を受けたというんだ? 一体なんでそんな数字に強い愛着があるというんだ?

わからないから推測するしかないのだが、松本零士は西崎から企画を持ちかけられる前から別に宇宙航海物語の案をあたためていたという。初期設定は破棄されて、松本案を元に一から練り直された。特にこだわったのは人物で、乗組員らを新選組の隊員のように描きたいと主張。あらためてひとりひとりを造形し、新選組にあやかった名前を個々に付けていった。沖田艦長のモデルは戦争中に戦闘機に乗っていた松本零士の父親である。だから『ヤマト』の物語は松本のもの……というのがよく知られるが、西崎義展原作派が断じて認めない話だ。おれはもちろん松本派なので松本零士原作支持だが、氏が先から考えていた宇宙航海物語とはどんなものだったのか。

おれの想像なのだけど、マゼランの世界一周航海を宇宙に移したものだったんじゃないか? 沖田のモデルは氏の父親であるという。確かにそうなのだろうけど、実はもうひとり、マゼランも沖田のモデルなのではないか。子供の頃に読んだ本とは、マゼランの航海記なのではないか。感銘を受けたというのは、その星雲をマゼランが見た事実じゃないか。だから〈ヤマト〉が向かうのはマゼランの星雲で、距離はその本に書いてあった数字でなければならないのではないか。

マゼランについて調べてみると、そう思わずにいられない。おれはてっきり、『ヤマト』とは、バカみたいな戦艦がドーンと宇宙に飛び出して、宇宙沖縄、宇宙硫黄島、宇宙サイパン、宇宙ミッドウェイ、宇宙ハワイから宇宙ワシントンへと宇宙アメリカ軍を蹴散らして進む話とばかり思っていたけど、違う。〈ヤマト〉の旅はそんなものよりマゼランが世界の地図を丸めた旅そっくりなのだ。

のだけど、その話はいずれ。また書く気になったらね。


(付記:〈小説現代〉2015年5月号に『わたしの戦争体験』として松本零士の談をまとめたらしい文が載っており、読むと「なかでも影響を受けたのは、京都産業大学の創設者である荒木俊馬博士の『大宇宙の旅』と――」という箇所があった。〈十四万八千光年〉はこの本から出た数字ではないかと思うがよくわからない)

(付記2:ちなみにこのログは、古代が模擬空戦に敗れて加藤にアマチュアと呼ばれる断章と同時に出した)



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之