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ヤマト航海日誌

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2014.12.21 西部警察パトレイバー



大人は信じちゃいけないけれどもなめてもいけない。『機動警察パトレイバー』のアイデアは出渕裕のものなのだろうが、もしそのまま作っていたら『西部警察パトレイバー』になっていた、という話を前に書いた……ずいぶん前のことだねえ。〈ヘッドギア〉の企画会議のようすなんておよそ想像がつく。出渕裕が、


「銀行強盗のクルマが逃げるのを追いかけて、〈イングラム〉がリボルバーキャノンをバンバン撃つんだ。流れ弾で周りのクルマが次から次にハジケ飛んで、店やらビルやらガソリンスタンドなんかに突っ込んで人が百人も死ぬ。主人公は上から怒られるんだけど、『なーんだろねー怒鳴んなくたっていいじゃない』かなんか言って、女の子達で風呂に入ってキャアキャアキャア。その頃、街はまだ燃えていて……」


他の者らが口を揃えて、「絶対にダメだ、そんなの!」

しかし当時はそんな小説が結構あった。『ダーティペア』とか『ARIEL(エリアル)』とか、まだ〈ラノベ〉と呼ばれる前のラノベ本だ。戦闘ヒロインが暴れることで街が壊れて死者が何千、何万と出る。そのテの本は、市民の巻き添え被害が多ければ多いほどおもしろいとされていた。

八十年代はバブルの時代だ。その空気がそんな感覚を生んだのだろう。おれなんかも喜んでそんなものを読んだクチだが、アニメでやっちゃいけないのはちょっと考えればわかる。

小説本なら大人はまず読まないのだ。しかしアニメだったりすると、息子がビデオ見てるところにお父さんがビールなんか飲みながら横で見てしまうことが有り得る。お父さんは街が壊れるシーンではくだらないと思いながらも笑っているかもしれない。しかし続く場面には、はらわたが煮えるような怒りをおぼえる。

それがまっとうな大人ってものだ。何しろおれでも『ARIEL』なんか好んで読みはしながらも、ヒロインの言動には常にムカついたくらいだから、何も知らずに『西部警察パトレイバー』を見てしまったお父さんの感情は想像するに余りある。蚊が「へへへへ」と笑うのを見るくらいの怒りだろうか。

世の中にはこれをやったら『たかがお話』と笑って済ませてもらえなくなる境界線がおのずとあるのだ。それがわかるから他の者は反対するのに、出渕という蚊男は「なんでー? おもしろいじゃん」と言ってこたえない。自分が挿絵を描いてるような小説がそれで受けていたりすると、何が世間でヤバくなるか理解できなくなってしまうわけだな。

ロボットが街を壊して多数の市民が死ぬアニメはおもしろい。それはそうだ。『新ルパン』の最終回『さらば愛しきルパン』だってそれでおもしろいのだから、やっていけないことはない。けれどもあれはヒロインが罪の意識に苦しむのがちゃんと描かれるものだから作品として評価されるわけだろう。

逆をやったら批判されるに決まってんじゃねえかよ、なあ。三十、四十、五十という歳になってなんでわかんねえやつがいるんだ。どっかに大人が今日はほんとにビールがうまいと思って飲みながら見れるアニメを作れるやつはいないもんかね。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之