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ヤマト航海日誌

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なんて――だから同様におれの『敵中』に関しても、盗んで女の子に見せて「これはオレが書いた」と言えば相手が疑うはずがないと考える。島田信之なんて人間、誰も知らないわけだからね。

本当におれはやっててよくわかる。これまでおれを読んできたのはそんなやつらばっかりだ。

『デスノート』の主人公、八神ライトは決して自分が〈キラ〉であると他人に打ち明けることはない。

誰にもだ。たとえエルに勝ったとしても人に言えない。〈新世界の神〉とやらになったとしても言えないのだ。十年前におれはテレビであれを見ながら、『なるほどまあおもしろいけど、ライトにせよエルにせよほんとに頭がいいと言えんな。ストーリーはよくよく見れば穴だらけだ』と考えていた。

十年前の2007年は市橋達也がリンゼイ・ワグナーを殺して逃げた年である。夜神ライトやエルならばものの二秒でその居所を突き止めて、「ここだ! この無人島だ!」と地図を指差して警察に教えてやれたものらしい。どんな難事件であれ、彼らに容易く解決できなかったことはないというならそうなのだ。

そういうところがまずくだらんと思うのだが、それ以上に、たとえばエルだ。こいつには、夜神ライトに絶対に殺されずに済む方法がひとつあるのにそれをやらない。たぶん原作者の大場つぐみというやつが気づいていないか、気づいているが話の都合であえてそれをやらないかだ。で、普通のマンガ読者はちゃんと考えて読んじゃないから無数にある嘘や無理にはひとつも気づかないのであろう。

しかしおれの見るところ、エルにはひとつ、夜神ライトに絶対に殺されずに済む方法があった。言えばいいのだ。「ライト君、今の状況でわたしが死んだら、ライト君にも一緒に死んでもらうことになります」と。

夜神はこのとき完全に勝ったつもりでニタニタしてるが、それを聞いて、「え? それはどういうことだ?」


「わたしが死んだら、それがどんな死因にせよ、ライト君が〈キラ〉でありノートを使ってわたしを殺したと見なして暗殺者が動く手筈を整えました。ライト君が家を一歩出た途端にスナイパーが頭をブチ抜くことになります」

「ちょっと待てよ。証拠は? ぼくが〈キラ〉であるという証拠は?」

「何を言っているんです。この状況でわたしが死ねばそれは必ずライト君が〈キラ〉ということになりますよ。ですから、それが動かぬ証拠ということになるじゃないですか」

「た、た、た、確かにそうなる……でも、それは状況証拠で……」

「それがなんです。どうせわたしが死んだなら、証拠などもう必要なくなります。『わたしが死ねば夜神ライトが〈キラ〉である』と言い遺してわたしが死んだら、北朝鮮や他のローグ国家で軍事独裁を狙いながらまだ〈キラ〉に殺されていない者達が殺し屋を日本に差し向けてくるでしょう。彼らは証拠など気にしません。疑いのある人間を百人殺してその中に〈キラ〉がいればいいと考えます。ですから、今わたしが死ぬと、ライト君は家を一歩出た途端にライフルで狙撃されるか、市橋達也のように素性を隠して逃げ回るしかなくなるというわけですね。市橋達也と違うのは、見つかったら殺されることです。ライト君、わたしと一緒に死んでください」

「そ、そ、そ、そんな無茶な……」

「わたしのやり方はよく知っているはずです」

「でも、死因が落雷の場合は? 〈デスノート〉は自然現象は操れない……」

「それを知るのはここにいる我々ほんの数人だけです。ローグは知らぬし知っても気にしないでしょう。わたしが死なねばいいだけのことです」


と。こう言えば夜神ライトはエルを決して殺せなくなるのにそれをしない。たぶん、やっぱり大場つぐみというやつがほんとはわかっているけれどこれをやったらそこで話が終わりなために無理を承知でやらずに押し通したんじゃねえかと思うな。

そうだろう。だいたい、エルは夜神ライトの父親にそれまで再三『今わたしが死んだらライト君が〈キラ〉です』と言っているのにいちばん肝心なところでもう一度それを言わないというのが変だ。普通の人間はあのマンガを読んでもこんなところには気づかぬだろうが、おれの眼はごまかせない。大場つぐみはここのところでひとつ大きな下手(ヘタ)を打ってる。

で、そのために『デスノート』はそこから先の話がつまらなくなっている。おれは映画とアニメ版を見ただけで原作マンガは読んでいないが、原作に忠実らしいアニメ版のその先の話はおもしろくなかった。原作ファンの間でもあまり受けはよくないとか。

そりゃそうだろうな、とおれは思った。おれはこういう人間だから、死神がノートをくれれば使うだろう。十年前の北朝鮮の親玉と言えば金正日(キムジョンイル)。だから、まあ、書くだろう。《金正日、便器に顔を突っ込んで死ぬ!》とでも。

数日後にテレビのニュースで、


『北朝鮮の政府に混乱があるようです。どうも金総書記が不慮の死を遂げたらしいのですが、死因など詳しいことは公表されず……』

おれは言う。「ウヒャヒャヒャ! リューク、ちゃんと便器に突っ込んで死んだのかな?」

「さあなあ。あの国のことだから、そんな情報は絶対におもてに出ないだろうな」


と、そんなふうに使うだろうなとおれは思った。北朝鮮は多くの情報が大場つぐみの素性のように固く閉ざされなかなか外に流出しない。誰も思っていることを軽々しく口に出さない。インターネットに個人が容易く書き込みなんてこともできない。だからどいつがどれだけ悪くて、どこでどんな悪いことをしているかを日本にいながら知ることはできない。

はずだと思うが、夜神ライトは軽々とそれをやってのけている。死神リュークがリンゴをムシャムシャ食べつつ言うのだ。


「すげえな、ライト! ネットの情報だけを頼りに、北朝鮮の悪いやつを十万人見定めて、一時間で名前を書いちまうとは! 一秒間に28人の割合かよ! 北朝鮮が60分で平和な国になっちまったぜ!」

「フフフ、こんなことはまあぼくしかできないだろうね」


こんな場面を見るたびに、この原作者の大場つぐみという男はほんとはすごく頭が悪いに違いないなとおれは思った。たぶん、きっと、途轍もなく頭が悪くて簡単な算数の計算さえできないのに違いない。

本当ならば北朝鮮は、エルのやつが「〈キラ〉は日本の関東にいる」と言った五分後に関東に向けてありったけの核ミサイルを飛ばしているはずである。北朝鮮の悪党には、〈キラ〉が誰かなどどうでもいい。自分が殺されなければいい。だからきっとそうするはずだ。

そしてきっと言うだろう。「恨むのならばエルを恨め」と。エルが頭のいいつもりでバカなことをやらかさなけりゃ、誰も死なずに済んだのだから。それに〈キラ〉が愚かにもエルの挑発に乗らなければ、やはりこれはなかったのだ、と。
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之