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ヤマト航海日誌

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2017.12.28 宝くじの定理



おれは自分の恐怖症に自分であきれているところである。

前回書いたがおれはインターネットが怖い。こんな投稿しているけれど、できることならPCをモデムに繋ぎたくない。繋げば、画面に『ヤマト』のドメル将軍みたいな男が現れ、


「フッフッフ、ワタシは貴様のパソコンを爆弾に変えてしまうウイルスなのだ。一緒に死んでもらうぞ、三、二、一……」


ドカーン! なんてなことが起きやしないかといつもビクビクしているのだ。だから契約は動画なんか見れないらしい遅いやつ。無線LANなんてとんでもない。この投稿をするときだけLANケーブルをPCに挿し込み、終わればすぐ引っこ抜く。この四年間ずっとそれでやってきて、たとえば今年の三月から七月までの五ヶ月間など、ただの一度もケーブルTVのモデムにPCを繋いでいない。

そのくらいにインターネットが怖いのである。

が、しかし、本当のところはたぶん違う。〈怖い〉と言うより〈気味悪い〉のだ。WEBの世界というものが、おれには昭和の公衆便所のように穢らわしい場所に思える。中の壁は落書きだらけで、アンモニア臭が眼にまで沁みて、床にはゴミが散らばっている。どうしても我慢できぬから仕方なく入り、三つ並んだ小便器のうちいちばんどうやらマトモそうな真ん中のやつの前でチャックを開けると、ああ、今までどこにいたのか、男がふたり出入り口から入ってきておれの左右の小便器の前に立つではありませんか。おまけに、誰もいないはずの個室のドアがギィーッと音を立てて閉じ、再び開いてその奥から「ぐふふ」という笑い声が……。

そしてそして、ああ、なんと! おれの前の小便器の排水口からウニョウニョと動くミミズのようなものが! 現れ出てきておれの小便の滝を昇ってくるではないか! おれの○○に達するまであと15センチ! 10センチ! 9、8、7、6、5、4、3……。

怖いよお! 昭和の公衆便所ってのは、ほんとにそんな場所だったんだよ! いや、本当にそんな場所というわけではなかったけれど、でも本当にそんな気がする場所だったんだ。本当だよ。今はめっきり見なくなったが、かつてはとにかく気味の悪いそんな便所がたくさんあった。

で、おれには現在のWEBの世界というものが、その昔の公衆便所とまったく同じに見えるのである。このサイトもだからおれはトップページをまったく見ない。見ると怖いし気持ち悪いからだ。〈ひよひよ〉とか〈ぷにゅぷにゅ〉とか〈とぺとぺ〉なんて名前を自分で付けている変態どもがおぞましい排泄物をさらけ出し、喜んでそれを食べたり体に浴びる者がいる。そういう世界があるというのがおれには怖いし気持ち悪い。

だから見なくて済むように、この日誌や『敵中』を更新するためPCにLANケーブルを挿し込んでも、〈スタートメニュー〉から〈いつものサイト〉というのを押しておれのページに直接入り、用を終えたらケーブルを抜く。いつもそれでやってきていた。それでまったくなんの不都合も感じなかった。おれがトップのページを見たのは例の〈六位の一件〉のときが最後で、以来二年以上に渡って、こんな投稿を続けていながらおれはサイトのトップページを全然見ていなかったのである。

ただの一度も! 『いつもネットに繋がっていないと不安だ』なんて言う者からしたら信じられない話かもしれんが、おれはそれとはまったく逆の人間だからそうなのだ。

だいたい、おれはそれでなくても、WEBなんかにドップリ浸かった人間が嫌いだ。街に行けば必ず日にひとりくらい、スマホをいじるか通話しながら道を歩いているやつがぶつかってこようとするのをよけなきゃならんし、自転車の前を横切られて危ない思いをするのもたびたびのことである。そんなときでも当のスマホ星人の野郎は、おれの方を〈なんだコイツ〉という顔をしてチラリと見るだけで行ってしまう。たぶん、しょっちゅう本当に人にぶつかっているのだろうが、謝りもせずその後も毎日スマホ歩きを続けるのだろう。

おれは見るたび後ろからそいつらの頭を蹴り飛ばしてやりたくなる。

誰かおれにライフル銃の一挺でもくれる者がいたならば、ビルの非常階段にでも上がってスマホ野郎どもの脳天を片っ端からみんな狙撃してやりたい。『デスノート』ってマンガの主人公・夜神ライトのようにだ。ほんとにそういう死神がおれの前に出てきてくれないものだろうか。どうせまわりの通行人は、そんな連中が倒れても、


『バカなやつ。スマホなんかいじくりながら歩いてるからつまずくんだ』


と思うだけで気にせず通り過ぎるだろう。スナイパーが上から銃で撃っているなどとは誰も気づかないのじゃないか。

『デスノート』をおれはマンガでは読んでおらず、映画になったのをテレビ地上波で放映されて初めて見たが、あれからもう十年になる。当時は結構いたはずだ。ちょっと知り合った女の子に、


「ねえ『デスノート』ってマンガ知ってる? あの原作者の大場つぐみって、実はオレなんだよん」


なんてことを言うバカが。大場つぐみというのは当時、覆面作家で顔も素性も秘匿であるように聞いたけれども今もそうなのであろうか。マンガと言えば同じ頃、『だめんず・うぉ〜か〜』なんていうのも人気があって、しょっちゅうそんな話ばかり。


「アタシはもう六人の男性から『自分が「デスノート」の原作者・大場つぐみだ』と言われました」

「アタシはふたり」

「アタシなんか十五人ですよ」

「すっごーい。アタシ、ひとりもいないなあ。そんな人と会わないのはアタシには女としての価値がないということでしょうか?」


と。これに対して倉田真由美と〈SPA!〉の担当編集者が、


「いや、言われるのはロクでもない男の眼に〈コイツは隙がある〉と映るということだから。言われないのが正常ですのでなんの問題もありません」

「でも逆に、そんな男がどんな顔でそれを言うのか一度くらい見たいような気もしますね」

「いやいや、ウザイだけだって」

「一体なんでだめんずの人はそんな嘘をつくんでしょう。一秒でバレると思わないんですかね」

「まあ思ったら言わないよね」

「『デスノート』の原作者・大場つぐみは謎の人物で、一部の関係者以外に誰も顔や名前を知らない。だから自分がそれだと言っても相手はそれが嘘という証拠を見せることができない。証拠さえなきゃ大丈夫で、相手はオレの言う事を信じる以外にないのである、と」

「そういうふうに考えるんだね」

「でもそんな謎の人物が、ちょっと知り合っただけの相手に自分から秘密をホイホイ明かすなんてことがあるわけないでしょう」

「だめんずはそういうふうには考えない……と言うより、嘘をついてるときは、自分がほんとに大場つぐみであるかのように錯覚しているんだね。『デスノート』の原作を自分がほんとに書いたつもりになっちゃっていて、だから嘘をつきながら、嘘をついてる自覚がない」

「精神構造がそのように出来てる」

「そんなだめんず男が今(2007年)たくさんいるってわけだ」

作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之