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ヤマト航海日誌

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出渕裕デザインの〈キヤノンT90号〉を誰が造ってどんな技術で〈F-22ラプター〉のすべての点で三倍なのか何も気にすることもなく、作画が良ければそれでいい、それがリアルということだと言って恥じぬしその考えを信じきっているのだから。それがわずか十五秒のテレビCMを見ただけでわかる。

〈F-22〉とか〈F-35〉といった現用の米軍最新鋭戦闘機には、実は意外に、『シン・ゴジラ』で踏み潰された多摩川や呑川辺りの町工場(まちこうば)で星野鉄郎さんというネジ職人が造ったネジが使われていたりするらしい。マッハ2で飛びGや空気抵抗に耐える機体を造るには、ネジ一本に至るまで、普通のものとは精度も強靭さも桁違いに高い基準が要求される。それを造れるネジ職人は、世界広しと言えどもひとり星野鉄郎さんだけなのだ。

呑川辺りの職人さんがいなければ、戦闘機を造れぬばかりか、その整備も運用も、シュミレーターでパイロットを養成するのも、空を飛ばすに必要な高品質の燃料を精製することもできない。

昭和の戦争で米軍の〈B-29〉爆撃機隊は、多摩川や呑川辺りの工業地帯を集中的に爆撃した。浅間神社の見晴らし台から見える〈カンノン〉の工場なんかは地中貫通型爆弾でも使わなければ崩せぬほどに頑丈に造られてるが、その周りの小さな町工場は違う。狙いは星野鉄郎さんのネジ工場や、バネや歯車を造る工場(こうば)だ。高品質の部品がなければ〈零〉はもちろん〈飛燕〉だろうと〈疾風〉だろうとまともに飛ぶように造れぬのだから、空は〈ヘルキャット〉の天下となる。

ルーズベルトは米国民に誓って言った。「日本を石器時代に戻してやる」と。文明が崩壊したらその国はハイテク兵器の設計図がたとえあっても造れなくなり、竹槍で敵に向かうしかなくなってしまう。それが極悪デスラーのごときルーズベルトの言葉の意味だ。

で、公約通りになった。地球が〈怪獣惑星〉になったら、人はゴジラに竹槍で向かっていくしかなくなるはずだが、アニゴジ映画の十五秒のCMには、『ガッチャマン』の〈G1〜5号〉のようなスーパーメカがこれでもか。

一体なんでそんなことが可能なのか。おまけに、それに乗り込んでラドンやアンギラスと戦うのは、熱血漢とニヒルとミニスカ。CMには出てこなかったがデブとガキもいるのであろう。この連中が焼き鳥の串をどうする程度のことで諍いながら最後にラスボスのゴジラに向かう。

十五秒のTVスポットCMを見ただけでそれがわかるレベルの脚本。

誰だ、誰だ、誰だーっ! 伊藤計劃の〈ゴジラのトリル〉をこんなゴミクズにしやがったのは! しかし、もともと無理なんだよ。おれがあの〈トリル〉を読んで考えてみて、出した結論は〈ダメだ。こいつは素晴らしいけど、やれば必ずリローデッドでレボリューションなことになる〉だった。どうせ『ターミネーター』の未来が舞台の新三部作というやつも、『5』と『6』とはリローデッドでレボリューションだ。こういうものはそういうふうにしかなるわけないんだから。

伊藤計劃が『虐殺器官』と『ハーモニー』の間の話を考えた末にボツにしたのは、基本的にそれが理由であるのだろうな、とおれは思う。それがあの〈トリル〉を元にしたものだったかはやはりわからぬが……。

ま、とにかくそんなわけで例の〈アニゴジ〉はまったく見る価値なしとわかる。おれはこの〈トリル〉は捨てて自分で一から作りますよ、という話だが、どうかね、諸君。前回見せたおれのアイデア。みんな順調に盗んでるかね。

言ったろう。あそこまでなら盗んでいいとおれが自分で言ったんだから盗んでいいんだ。あれを元に君の小説を書けってえの。いいんだぜ。待ってたんだろ、こういう機会を。

〈ゴジラ1968:世界が揺れた年〉だぜ、ワーオ。おまけに首都高アクションだぜ。我ながら、〈『ヤマト』で『スタンレーの魔女』〉に勝るとも劣らねえほどすげえアイデア。よくこんなこと思いつくよな。おれの頭の中身って、一体どうなっているんだろう。

自分でそう思ってしまうくらいにすげえや。しかも、こいつを君達にどうぞ盗んでいいものとする。何、どうせ君達じゃ、これを盗んでもアイデアの〈地中貫通型爆弾はゴジラに当たれば殺せるけれど当てられない〉という部分は使いたくてもできんだろう。アイデアをこねて形にするだけの力を持ってるわけがない。八分の一の萌えフィギュアを造ろうとしてうまくできない程度の造形力なんだろ。ましてやおれがその昔、箱崎のジャンクション近くにあった親の実家に行くたびに水天宮の駅でかじりついて見た首都高のすげえジオラマに怪獣を置いてドドーンなんていうのは到底――。

だからまあ、


「ああっ! 地中貫通型爆弾がゴジラに効きませんでした!」

「何ィ!? それでは、もはや核しか手段がないぞ」

「お待ちください、長官! 東京で核を使うとおっしゃるのですか!」

「だがそれしか手段がないのだ」

「しかし、核さえ効かなかったらどうするのです!」

「だがそれしか手段がないのだ」

「アッ、待ってください長官! 新たな報告が届きました。核を使えばゴジラはまっぷたつになるだろうが、プラナリヤのように再生して二匹のゴジラになってしまう可能性があるとのことです。核を使ってはいけません!」

「な、な、な、なんだとう! だがそれしか手段がないのだ。核を使うぞ」

「待ってください、ちょーかああんっ!!!」

「待てん!!!!! いや、一日だ。一日だけ猶予をやろう。24時間後に核攻撃だ」


なんてな具合にセリフだけで全部状況を説明して、ああ、これではどちらにしても、もう日本はおしまいだ。核の使用まであと一時間――。

と、そのときに、


「実体を見せず忍び寄る白い影。科学戦術隊GAT現着!」

「おお、なんかものすごくリアルな者達が現れたぞ。『ガット』だって。名前がいいなあ。リアルだ。すごくリアルだぞ。それに〈参上〉とかじゃなく、『ゲンチャク』ってのがリアルの極み。これを荒唐無稽と言う人間はいないだろう。アナタ達は何者ですか」

「我々は〈GAT〉。ガッズィラ・ペラペラペラペラ・チームの略。1954年のゴジラ上陸事件の後に密かに設立されていたゴジラ対策部隊なのです」

「リアルだ。荒唐無稽じゃない!」

「我々の装備をご覧ください。すべてが米軍〈ファントム〉の1.3倍の性能を持つ戦闘機〈G1号〉。装甲車の〈G2号〉。被災地ではやはりバイクの〈G3号〉。潜水艇の〈G4号〉。そしてこれが、エーワックスにしてガンシップを兼ねる輸送機〈G5号〉……」

「おお、リアルだ。デザインもリアル! ところでアナタが持っているのはポケットベルというやつですか。電電公社がこないだ営業を始めたという……」

「デンデンコーシャ? これは〈スマホ〉と言いまして、我々はこれで連絡を取り合うのです」

「おおっ! まるで『ウルトラセブン』や『スーパージェッター』の腕時計型通信機だ! それは一体どんな技術で……」

「何しろ科学戦術隊ですから」

「リアル! リアル! リアル過ぎる! 荒唐無稽さは微塵もない! しかし、相手は地中貫通爆弾も効かない化け物ですよ。核の使用まであとわずかに……」
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之