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ヤマト航海日誌

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2014.12.11 ノストラダムスとヒトラーと



また例の従兄弟の話だ。最後にあいつと会ったのはおれ達が高校生のときだが、そのとき、あいつの本棚を見ると五島勉の『ノストラダムスの大予言』シリーズがパートIからIVまでズラズラ並んでいた。1980年代の半ばだ。〈1999年7月〉までまだ十五年ほどあった。

特に従兄弟の気が変になったとは思わなかった。この予言に興味を持つのは当時は当たり前なのだ。まだ東西冷戦の時代で、核戦争で二十一世紀は来ないのじゃないかなんて不安が結構あった。『ターミネーター』なんて映画もその頃の空気を反映しているわけだ。ただ、四冊もあるというのがちょっと気にはなったのだが……。

おれはこのとき、予言の話はもちろん知っていたけれど、噂を日本で広めたのがまさにその本だなんてことは知らなかった。『へえ、こんなもん読んでのかよ』と軽い気持ちで手に取りページをめくってみた。

いやあ、おもしろかったねえ。一晩で四冊全部読んじゃいましたよ。内容はカケラも本気にしなかったけどね。翌日には何が書いてあったのかもうサッパリ忘れてたけど。でもすごくおもしろかった記憶だけは残っている。

その十年後、90年代半ばに従兄弟は宗教にはまるわけだが、やはり元々の始まりは『ヤマト』だったんじゃないだろうか。『ヤマト』からノストラダムス、そしてついにナントカ教だ。

おれの従兄弟は、決して頭の悪いやつじゃなかった。学校の成績はいつもトップだったらしい。だが一方で、たとえば『ヤマト』の話になると、


「ガミラスの戦闘機は最高速度宇宙マッハ5。対して〈ゼロ〉や〈ブラックタイガー〉は宇宙マッハ1なので本当は勝てない。だけど、古代や加藤が乗ると速度は宇宙マッハ10になって――」


なんてなことを真顔で言うところがあった。勉強なんかできるとかえって人はおかしな考えするようになる見本かもしれない。また、大体こういうのが、東京の大学生辺りの受け売りだったりすることもある。

おれと従兄弟が小学校高学年で、『ヤマト』や『ガンダム』に熱中した頃、東京で大学生をやっていたのが出渕裕だ。と思う。歳はそうなんだが、あれは大学行ってるのか? とにかく当時、御茶ノ水に『丘』という名の喫茶店があり、〈ぶっちゃん〉と呼ばれる男がそこでナチス黎明期のヒトラーのように、社会から阻害された暗い若者達相手に演説ブチ上げてたことはよく知られている。なんでも五階建てくらいの、千人くらい客が入るほどに大きな店で、そこが全席、朝から晩まで毎日毎日、オタク第一世代で埋まってブツブツウダウダと変な議論に暮れているので、普通の人はまったく入れなかったそうな。

このとき誰かがその店に火を放っていたならばどれだけ日本のためになったか――そう思うと残念でならんね。ひょっとして宮崎勤なんて男も中にいたかもしれないしなあ。ウン、きっといたと思うな。

〈東京の大学生〉なんてロクなもんじゃないと今のおれはよく知ってるが、ガキの頃はまだまだてんで純真だった。おれの従兄弟はもっともっと純真だった。体はでかいがオツムは幼稚な大学生が『古代が〈コスモゼロ〉に乗ると――』なんて言うのを頷いて聞いちゃったりするんだな。ひょっとしてあいつが宗教に騙されたのは出渕裕のせいかもしれん。

思春期過ぎてアニメに夢中になってるなんて変質者に決まってるじゃないかよなあ。どうしておれもそこに気づかず、『大学生も見てるんだから「ヤマト」はすごい』なんて考えてしまったんだろう。出渕裕が当時にしゃべりまくったことをヒトラーの『我が闘争』みたいに本にまとめて売ればいいんだ。きっとすごくおもしろいぞ。今もぜんぜん変わらんようだけれどもな。



作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之