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ヤマト航海日誌

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「ははあ。それなら他人から、『お前にプロの資格はない。本を定価で買うことのない人間はどんなに才能があろうとダメだ』と言われたとしても、『知るか』と言える」

「兄はそういう人間です」

「ううむ……しかし個人電子出版なんて、とても難しいでしょう。普通はサクラを百人使って……」

「〈百部が売れた〉ということにする。〈売れた〉と言われる個人作家はほとんどがそのやり方でしょうね。けれどもタダで出したところで数人にタダで読まれておしまいでしょう。『もしドラ』だのなんだのかんだのでわかるように、ネットでは低劣で卑猥で醜悪で下賤で汚穢な出渕裕に劣るようなものしか受けない。そこで兄は『ヤマト』に目をつけました」

「それっていちばんロクでもないんじゃないですか」

「兄がそもそもロクなもんじゃないですから。『ヤマト』の個人リメイクは誰でも一度は考える。けれどもやる者はいないし、できる人間もまたいない。だがおれなら楽勝だ、こんなもん一年もあればイスカンダルまでやってみせらあ、と、ほんとに最初は軽い気持ちで投稿を始めてしまったのです」

「しかし誰も読まなかった」

「そうなんですねえ。当たり前です。火星まで書いてやめたときには兄はほんとにやめる気でしたね。タイタンの後でやめたときにもやっぱりほんとにやめる気でした。『しばらく休む』じゃあなくて、『やめる』と書いてやめたんですよ。けれどもしばらく経って見ると、後から読んでるやつがいる。いま思えばその連中、『これを盗んでオレが続きを書けるのじゃないか』という考えでいたんですね」

「うーん、いや、それはどうか……」

「兄の『敵中』は一度だけ、このサイトのトップページにランクされたことがあるのです。冥王星を〈スタンレー〉と呼ぶ理由を明かしたところで、それまで三日にひとりくらいだった『ゴルディオン』のアクセスがググッと上昇し、一日に五人六人と増えていって、古代と森が展望室で絡むシーンを入れると四十人にまで達してそこで六位になった」

「へえ。本当に?」

「はい。けれどもそこで兄は首を傾げました。〈その前日に四十人に開かれた〉ものとしてランクされた『ゴルディオン』が、その日にタッタ三人くらい。そのまた次の日、ただのひとりも開く者がいなかったのです」

「え? それってどういうこと?」

「ジェットコースターみたいでしょう。兄はまったくわけがわかりませんでした。なんとそのとき、兄は投稿作品のコピペができる事実を知らなかったのです」

「いや、だからどういうこと?」

「考えたこともなかったのです。兄にとって他人の文のコピペというのは、猫がどんなにキャットフードをおいしそうに食べていても自分が食べたいと思わないのと同じくらいに考えられぬ行為なので、ドラッグを試みることもなかったのです。ずいぶんずいぶんずいぶん後でふと偶然に知ったとき、兄は本当に驚きました。『何を考えてんだこりゃあ!? コピペができるように作ったら、コピペができちまうじゃねえかよ、バカか?』と。兄はインターネットについてほとんど知らぬに等しいのです」

「ハッカーにはなれないでしょうね」

「わたしもそう思います。兄はそれまでわけがわからないままに投稿を続けていたのですが、例の六位の一件から後、どうも自分を読む者達のようすが何か違っているのを感じていました。普段『敵中』を更新してもまったく読む者がいないのに、古代を登場させてやるとそれとわかるわけがないのにそのときだけアクセスが増えたり……そういうことはまあ以前からあったのですが、違うのですね。それまで以上に、兄がフェイント掛けてやるとピクリと動いてすぐにササッと頭を引っ込める者がいるような気配が伝わってくる。これは微妙なものなのでデータを見せて説明しても頷く者はいないでしょうが、兄からするとそのように感じる。しかしなぜかわからない……」

「コピペができると知らなかったから」

「そうなんですよ。誰でも考えることではあるでしょ。『ヤマト』や『妖精作戦』のリメイク権利がもしも自分に与えられたらどうするか……誰もが考えることではあるけど、しかし誰も考えないのは、世界観を変えることなくおびただしい欠陥を直すのが不可能としか思えぬからです。これが『キューティーハニー』なら、誰もがやって縮小再生ニセブランド製品のスタンレー大山脈を築き上げる。画さえ良ければ話がどんなにひどくてもあまり文句を言われない」

「うん。せいぜい、『ハニーフラッシュは全裸でなけりゃダメだろ、全裸だ!』くらいだ」

「そうです。森雪がワープで……とにかく、『ヤマト』は画を直すだけというわけにはいかない。出渕裕や山崎貴はそれがまったくわかっていないし、福井晴敏ももうダメでしょう。『ヤマト』のまともなリメイクなどというものができる者などこの世にただのひとりたりとも存在しうるはずさえもない」

「お兄さんはそれが自分なら軽くできると軽く思い込んでしまった……」

「ちょっとどうかしてますよねえ。それでも、それをやってのけたら、『コート・イン・ジ・アクト』が売れることだろうと兄は考えたわけなのです。見定めた狙いは冥王星です。反射衛星砲を〈スタンレーの魔女〉と呼んで真田がその位置を突き止め、古代が〈ゼロ〉で打ち倒す。そして森も――という話をリアルにカッコよく書けたら、オールドファンが認めるだけのものになる。アマチュアによるウェブ投稿小説ならそれができる、と。で、これから自分がやるのはそういうものだということが『ゴルディオン』のあのあたりでわかるように書いてやったら、アクセスが一時的にハネ上がってその後ゼロになっちゃったのです。兄はただただ、『これはどういうこっちゃねんな』と……『まさかこいつを印刷してスキャナに掛けて文字認識させ、誤字をセッセと直していくやつがいるとは思えんし』と……本当にコピペについてはチラリとも頭をかすめることすらなかった」

「それで覚醒剤に手を?」

「ああ、そうなのです。コピペができると最初から知っていたならば、廃人とならず済んだものを。『敵中』を四、五、六部と書き続けていけたものを。けれども兄は死にました。この〈第三部〉は兄が執念で書き上げたもの。これをあなたが書き継ぐのです」

「はあ。そう言われても……ええと、なんて言いましたっけ、南浦和のシブ知(ち)?」

「南アラブの羊」

「それに、ボキャブラのやっぱりシブ知……」

「ブランカルナの騎士」

「〈シブ知〉というのは確かあんまり笑いが取れなかった記憶があるんですけどね」

「なんの話かわかりませんが……とにかくあなたがこれから兄になりすませばいいでしょう。なーに、ほんの一時(いっとき)だけのことですよ。すぐに島田信之はあなたが作った架空の人物で実在しなかったことにすればいい。ほんとはあなたが全部最初から書いていた。それでコピペだ盗作だと人に言われず済むでしょう」

「はあ。そりゃ結構なことですが」
作品名:ヤマト航海日誌 作家名:島田信之