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父と娘、時々息子

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 父はとても忙しい人であった。
 それでも、先ほどから書いているように祖父の誕生日と夏休みか、私の誕生日前後には家族旅行を必ず企画してくれた。
 そうすることで、祖父への義と私たちが金沢に預けられている間の絆を確かめるものでもあったのかもしれない。
 夏休み、どうしても旅行を企画しても実行できない場合、私達金沢組が大阪へ出てくることになっていた。
 なのにいつも父は仕事に追われており、残念ながら忙しいのは毎年決まって夏なのだ。
 春・夏は高校野球があり、その音楽のほとんどを父が担当していた。
 父の知らないところで、カメラが切り替わり音楽担当を映し出していた時に、小学校の当時私の担任だった先生と他の先生たちが甲子園を観ていたようで、大騒ぎになったことがあるほどだ。
 そうなると、甲子園が終わるまでの間、従妹の家と大阪の自宅と何度も行き来させられた。
 甲子園が終わると国営の国民的番組で使うアレンジで地方に出張とか、とにかく父の仕事は節目節目に本番なので、言ったらきりもなければ休みも無理やり作らなければない状態だった。
 それでも記憶に残っているのは録音スタジオの待機室で見た、父の仕事をしている姿が本当に素敵だった。
 普通なら職場に子供を連れて来るなんて信じられないだろうが、父はみんなに事情を話していたこともあり、私も父を困らせることにならないように、椅子に座って静かに録音が進んでいくのを見ていた。
 すると、いつの間にかそれが名物になってしまった。
 私と弟が行くたびにスタッフさんやエンジニアさん、事務の方々が入れ代わり立ち代わり様子を見に来ては、お菓子や鉛筆といらない紙を沢山持ってきて、休憩中の人はなんでか私達と遊んでくれたことを覚えている。
 だが、それが目当てで父の仕事現場に入り浸っていたわけではない。
 やはり、父が仕事をしている姿が好きだった。
 いつもは楽しいことが大好きな、超マイペースな父が仕事モードに入ると優しいけれどどこか凛とした空気を出す姿がかっこよく見えて、さらに大好きになれた要素だった。
 夜になれば、音楽とお酒がメインの店でピアニストとして常駐しており、出張で大阪にいない日以外は毎日その店にいた。
 父のピアノは唯一無二で、私の中では絶対だ。
 言えば、母のお腹の中で父のピアノをいやっていうほど聞いていたのだから(もちろん、いやじゃなく、もっともっと!と欲をかいていたが)、胎教に近いものがある。
 むしろ刷り込み、か?
 兎角、父のピアノを聞いて、そのピアノを弾く技術と音楽センスで私は育ってきたし、育てられた。
 子供の頃に父の職場を見ておくのに、悪いことはない。
 父の仕事を理解するうえでも、父にとっての仕事の意味も、わからない乍らに何かは感じ取ることができた。
 その中での尊敬が生まれたわけでもあるから。

作品名:父と娘、時々息子 作家名:SAYA.