父と娘、時々息子
音楽と人と言葉、何よりママの歌を近くにして働けるなんて、夢みたいなこと社交辞令も半ば覚悟して、ママに返答した。
「興味があるどころか、凄くやりたいです!でも、また父がなんていうか分からないので、口説けませんかね。」
すると、ママが父を口説き落とす方法を知っているようで、ピアノ付近で二人はごにょごにょ話しをし、父が私を見ていった。
「サヤがやりたいて言うたら・・・。」
その言葉が言い終わる前にママがネタを明かした。
「実はサヤちゃんには了解、得てるんです。」
聞かされた父は、一瞬で決まってしまったことが飲み込めない様子で私を見、首をかしげて私に何か訴えてきていた。だが、そっと視線を外し、私はニヤケ顔が止められなかった。
1ステージ分、ピアノを弾き終えグラスを片手に持ち、隣りに帰って来てしばらく何か言いかけて早め手を繰り返した。
ちまちまラムネを一粒ずつ食べながら、父の言葉を待つ。
「やりたい、言うんたん?」
時間引っ張っておきながら、それしか出てこなかった。
「言うた。それに手伝いやて。Mさんの入院の間らしいから。」
父は私任せに返答を待った結果が、望み通りのものでなかったことに面を食らっていた。
そのせいか知らないが、お酒のペースは上がり、そのお酒の力もあって、私に何度も「大丈夫なんか?」「お前が思っているよりも難しい世界やぞ?」「普通のバイトしてた方がええんちゃうか?」としつこいのなんの・・・。
どの世界でも働くのは難しいし、働かないわけにはいかない、普通のバイトは人と関わるっつったって機械的でほぼ自分の考えなしに動け言われるんじゃ、人じゃなくてええやんなぁ?と説き伏せる。