父と娘、時々息子
ある日、父に誘われ、かつて父が常駐ピアニストとして働いていた、父の友人の店へ行った。
父は機嫌よく、昔なじみのお客さんと話をしたり、ピアノ伴奏し、弾き語りもして遊んでいた。
私が暇そうにしていると、その店のチーフマネージャーで、私がなついていた数少ない大人の一人であるMさんが一つキューブ型のおもちゃもってきて、「これ、ライト点くんやけど、点けてみ?」と私の前に置いた。
「点けたらなんかあんのん?」
「ないけど、点けられへんかったら、俺の代わりにこっち入って働くか。」
「私が点けたら、ショコラ3点セット!」
17.8にしてショコラを知っている時点で、自分ですらいかがなものかと思うが、どちらにしても私にとっては良い条件であった。
私がキューブ型のライトを点ければショコラ、点けなければお店で働ける。
きっと、Mさんは冗談で言ったつもりだったのだろうが、その後、Mさんも驚くことが起きた。
ママが私のところへやってきて、聞いた。
「これから先、何かバイトとか決まってる?」
「いいえ、決まっていなくて、探してる最中ですよ?」
私の言葉に何かを決したようにMさんに目配せをし、何やら合図を送っているが、Mさんは「えぇっ!?」と今にも言いたそうな顔をしていた。
何やら私の頭の上で会話を長いことして、何をきっかけに落ち着いたのかわからないが、ママはさらに続けた。
「うちで働いてみない?て言われたら、サヤちゃん、興味ある?」
私にとってこんなありがたい話はなかった。
父と母が出あったお店であり、何よりプロの音楽家や俳優、タレントがお客様出来たり、デビュー前に修行しに来るようなお店だ。
ママ自身も歌劇出身で、ママの歌は私にはとても思い入れが強くある。