小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ぶどう畑のぶどうの鬼より

INDEX|13ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

13 物言わぬぶどうの下で



いっそ
俺が先に発つか

あいつが畑を
去っていくのを
見るくらいなら

今日が最後と
決めた日だから

畑じゅうの
スプリンクラー
ひとつ残らず
全開にして

おまえたちに
水をやって
出て行くよ

実がなる間
水もやらず
むごい仕打ちで
悪かった
ほんとにごめん

でも俺が
水をやるのも
これが最後
せめてたくさん
飲んでくれ

スプリンクラーの
しぶきがやけに
威勢がいいのが
ありがたい

泣いても音に
紛れるよな

ここを離れて
出ていくのは
あいつを忘れる
ためなのに

離れたところで
忘れるなんて
とてもじゃないが
できそうにない

いったい俺は
どうしたらいい?

聞いてるのか?

長いつきあいの
おまえたちだから
こうして
白状してるんだ

黙ってないで
少しは何とか
言ってくれよ
最後くらい

モンペと長ぐつが
よく似合うあいつ

耕うん機だって
今じゃ難なく
乗り回すあいつ

バラなんかより
はるかに好きと
真昼の畑の
あぜ道で
ひまわりに
見とれたあいつ

おせっかいで
涙もろくて
暗がりを怖がって

見栄っ張りで
気が強くて
言いだしたら
引かないところは
俺と
いいとこ勝負で

そして何より
いつのまにか
俺の心に
根っこを張ったあいつ

見事に根っこを
張り巡らして
俺の心を
がんじがらめに
してくれた

生意気で
でも憎めなくて
あまりにも愛おしい
あいつの面影

あとからあとから
嫌になるほど
蘇るのに

どうやったら
この畑に
全部置いて
行けるかな?

作品名:ぶどう畑のぶどうの鬼より 作家名:懐拳