ぶどう畑のぶどうの鬼より
14 帰るぞ
おまえが
ひまわり好きなのは
とっくの昔に
知ってるが
ひまわりは
ひまわりでも
おまえの好みは
都会の花屋の
洒落た切り花
そう思ってた
違うのか?
けったいな奴
今さら何を
トチ狂って
こんな田舎の
あぜ道の
路地ひまわりが
趣味なんて
それでいいのか?
本心なのか?
突然ズカズカ
やってきて
物も言わずに
殴りかかるほど失敬な
医者先生の
言うことだ
あながち嘘とも
思えない
ぶん殴られて
自分の鈍さに
目が覚めて
走りに走って
ついさっき
おまえがソウルに
発ったと聞いて
おんぼろトラックで
無謀にも
汽車に挑んだ
カーチェイス
鈍行しか止まらない
片田舎 永同(ヨンドン)に
今日だけは
心底 感謝
そもそもおまえに
特急なんかに
乗られてみろ
俺の決死の
カーチェイスは
無謀どころか
始まる前から
“勝負あった”だ
うれし涙が
ちょちょ切れるほど
田舎に万歳
信号もない
一本道を
エンジンも
焼けろとばかり
オンボロの相棒に
むち打って
2つ先
特急待ちの
深川(シムチョン)駅で
一か八か
改札わきを
すり抜けた
俺を殴った
医者先生の
罵詈雑言も
道で無理やり
追い越した
車の抗議の
クラクションも
改札で
怒鳴り散らした
駅員たちの
制止の声も
俺にはみんな
「惚れた女ぐらい
捕まえてみろ!」と
煽って冷やかす
挑発にしか
聞こえなかった
言われなくたって
捕まえるさ
首ねっこに
縄つけてでも
連れ戻してやる
鈍行は
えらくのどかに
停まってた
飛び乗るなり
おまえの名前を
叫んで歩いた
座席ごとに
左右見るのも
もどかしかった
どの客もどの客も
おまえに見えた
乗客たちは
迷子探しの父親とでも
思ったろう
そうじゃなけりゃ
半狂人だ
自分の名を
連呼する怒声
それがいかにも
場違いで
殺気立った
俺の怒声
驚いたように
長い髪が
ふわりとなびいて
ふりむいた
恐る恐る
立ちあがって
こっちを見たのは
見まちがえよう
はずもない
まんまるい
おまえの目
帰るぞ!
腕ひっつかんで
無理やりホームに
引きずり下ろした
否も応もあるか
早くしないと
汽車が出ちまう
性懲りもなく
戻りたがって
暴れるおまえを
力いっぱい
抱きしめた
鈍感にも
ほどがある
この俺と
おあいこどころの
騒ぎじゃない
人ひとり
乗り降りしない
さびれたホームで
無我夢中で
抱きしめてた
ドアが
閉まって
汽車がとっくに
動き出しても
すんでのところで
とっ捕まえた
ソウルになんか
行かせるもんか
二度と
離すもんか
俺は
おまえと
生きていくって
決めたんだ
作品名:ぶどう畑のぶどうの鬼より 作家名:懐拳