ねがいがかなうまで
「伊吹、もういいよ」
瑞が笑って言った。
「泣いていいよ」
その言葉は、感情に蓋をしていた伊吹の檻を叩き壊す一言だった。
「ううっ、ふ、」
嗚咽をもらして伊吹は泣いた。色んな感情が交じり合って、頭はぐちゃぐちゃだけど、握っているこの冷たい手が、感情の森で迷子になる伊吹を、守ってくれるのを知っている。
「うう、っ、ああ、」
「つらかったな」
「あああん、わああ、ううっ、ああ・・・うあああん、ああっ、うう、ぐっ、」
「・・・伊吹、ありがとう」
握り締めた手から伝わる、温度のない優しい温かさが、いっそう涙を誘う。伊吹は幼い子どものように泣いた。大きな声で。瑞は泣き止むまで、ずっと手を離さなかった。
夕暮れの風の中、季節が静かに変わり行く。
その中で、二人の心は静かに結ばれていくのだった。
別れの冬が来るまで、ただ静かに。
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