ねがいがかなうまで
何度も名前を呼ばれた。眠りの必要のない瑞は、夜がきてもじっと縁側に座り、目を閉じているだけのことが多い。秋めいてきた夜の涼しい風が山をゆっくりと走っていく。それを耳で感じながら、ただじっと朝を待っていたとき。
何度も、名前を呼ばれたのだ。
あれは伊吹だった。瑞、と切羽詰った涙声が、風にまじって届くのだ。
ごめん、と繰り返していた。何度も。
どうした、大丈夫か、と声をかけてやったところで、そばにいない伊吹には届かないのだが。それでも夜毎続くのはさすがに堪えた。伊吹が京都へ向かった四日目の朝、瑞は重い腰をあげた。
「伊吹を迎えに行く」
朝一番に、穂積にそう告げた。
「待てぬのか」
「待てぬ。泣いている」
おそらく知ったのだろう。瑞と、己自身の血の関係を。泣いて苦しんでいるのだと知れば、ますます気が逸った。
「同じだなあ、わたしもだ」
そう言って笑う穂積は、早朝だというのに身支度を整えている。
「今すぐにでも京都に飛んでいこうと思っていたところだ。昨夜、紫暮くんから電話をもらってね。どうしていいかわからぬから、来てくれんかというのだ。あの青年が珍しく、泣きそうな声で」
何度も、名前を呼ばれたのだ。
あれは伊吹だった。瑞、と切羽詰った涙声が、風にまじって届くのだ。
ごめん、と繰り返していた。何度も。
どうした、大丈夫か、と声をかけてやったところで、そばにいない伊吹には届かないのだが。それでも夜毎続くのはさすがに堪えた。伊吹が京都へ向かった四日目の朝、瑞は重い腰をあげた。
「伊吹を迎えに行く」
朝一番に、穂積にそう告げた。
「待てぬのか」
「待てぬ。泣いている」
おそらく知ったのだろう。瑞と、己自身の血の関係を。泣いて苦しんでいるのだと知れば、ますます気が逸った。
「同じだなあ、わたしもだ」
そう言って笑う穂積は、早朝だというのに身支度を整えている。
「今すぐにでも京都に飛んでいこうと思っていたところだ。昨夜、紫暮くんから電話をもらってね。どうしていいかわからぬから、来てくれんかというのだ。あの青年が珍しく、泣きそうな声で」