君と見た空
Episode.2 眠れない夜
カーテンの隙間から覗く月の光を見つめていた小鳥はごろりとベッドの上で転がった。
時計の針は夜中の一時過ぎを指していて、いつもなら眠っている時間なのに。
……眠れない。
全くといっていい程、眠くならない。
今日はいろいろな事があって、身体は疲れているはずなのに。
葵と久しぶりに会えたのが嬉しくて、つい先程まで二人で話していたのだ。
時折、悠の鬱陶しそうな視線を感じたが、それでも、話は止まらなかった。
といっても話すのは、ほとんど小鳥で葵は聞いているだけだったのだが。
さすがに悠も呆れたのか、それ以上は何もせず眠ってしまったらしい。
「……あーちゃん」
起きてる、と床で眠っている葵に、小鳥は声をかける。
けれど、彼からの返事はなくて。
小鳥はベッドから起き上がり、葵の元へと歩み寄った。
そして、そのまま彼の眠るタオルケットの中へと潜り込む。
「小鳥!?」
突然の事に驚いた葵は慌てたような声を上げるが、小鳥はそれに構わず横になった。
「やっぱり起きてた」
それなら返事をしてくれれば良いのに、と呟く彼女に葵は眉間に皺を寄せた。
「何だよ、急に!?」
「一緒に寝ようと思って」
「はぁ?」
小鳥の声にますます葵の眉間に皺が寄るが、すぐにある事に気づき、口元を緩めた。
「……怖いんだろ?」
どこか楽しげな葵の声に小鳥は一瞬息をのむが。
「ち、違うもん!!」
慌てて彼の言葉を否定して、小鳥は葵に背を向けた。
自分の腕をぎゅっと掴んでから、彼女は頬を膨らませる。
「だいたいあーちゃんが悪いんだよ!!」
「……俺のせいかよ」
自分を責める小鳥の声に葵は息を吐いた。
「それはお前が暑い暑いって言うから、涼しくしてやったんだろうが」
「だからって怖い話をしてくれなんて、頼んでないもん」
くるりとタオルケットの中で寝返りを打って、小鳥は葵を睨みつける。
「うるさいよ」
低い声が悠のベッドから聞こえてきて、二人は身をすくませ、謝った。
「「すみません……」」
「早く寝なよ」
それだけ言うと悠は寝返りを打って、再び眠りにつく。
それを確認して、二人はホッと息を吐いた。
「……ほら、寝るぞ」
そう言いながら葵は小鳥へとタオルケットをかけなおしてやった。
「あ、ありがと」
彼の気づかいに感謝しながら、小鳥は葵の顔を覗き込む。
まっすぐに葵の瞳を見ていた彼女はくすりと笑った。
「何だか懐かしい気がする」
「何だよ、急に?」
嬉しそうな声を上げる小鳥を葵が見返せば、彼女は笑みを深めた。
「こんな風にあーちゃんと一緒に寝るのは久しぶりだなぁって思って」
そこで一度言葉を切って、小鳥は彼の瞳を真っ直ぐに見つめて言う。
「だから、嬉しいの」
そう言って彼女は手を伸ばし、葵の手にそっと触れた。
あたたかい感触にホッとしながら、小鳥は目を閉じる。
幼い頃と変わらないあたたかさにホッとして、小鳥はぎゅっと彼の手を握り締めた。
こうやって葵の手を握って眠ると必ずといっていいほど怖い夢を見なくて。
そんな彼の存在がとても心強くて、大切だった。
それは今も変わらない。
「……小鳥?」
黙り込んでしまった小鳥の顔を葵が覗き込めば、すうすうと寝息をたてて、彼女は眠っていて。
そんな小鳥を見つめて、葵がため息を吐きながら、彼女がタオルケットから出ないよう自分の方へと引き寄せる。
久しぶりに間近で見る彼女は幼い頃と何も変わらなくて、葵はホッと胸を撫で下ろした。
たった四ヶ月。
会えなかっただけなのに、彼女に会えて本当に嬉しくて、葵は小鳥の前髪を指ですくう。
そして、悠が眠っているのを確認してから、眠る彼女の額に葵はそっと口づけた。
「……これぐらい見逃せよな」
ぽつりと呟いて、葵は小鳥を抱きしめて、彼もまた目を閉じるのだった。