君と見た空
三浦、連れ込むにしても相手は選びなよね、と呟かれた声に、葵はかちんときたが、今の状況を考えると怒鳴ることもできなかった。
目の前にいる少女が誰かもわからないのに、騒ぎを起こすわけにいかない。
だが、彼の代わりに少女の発言に驚いた小鳥が叫ぶ。
「そんなんじゃありません!!」
「違うの?」
「違います!!」
あーちゃんは幼なじみです、と言う小鳥をまじまじと見つめ、少女が呟く。
「幼なじみ」
「そうです」
こて、と首を傾げる少女の表情は酷く幼くて、小鳥は彼女に見惚れた。
いつものきつい眼差しは消えて、年相応の表情がそこにはあった。
そんな彼女を見るのは同室になってから初めてで、小鳥は一瞬驚く。
いつも無表情であまり感情を出さない人だと思っていた。
「それで?」
その幼なじみが何でここにいるの、と問われて、小鳥は覚悟を決めて、口を開く。
「悠さん」
「何?」
「あの、しばらくあーちゃん、いえ、葵くんをここに置いてもいいですか?」
夏休みの間だけでも、と告げる小鳥に悠と呼ばれた少女はため息を吐いつつ、逆に問う。
「何で?」
「……それは」
何で、と小鳥が葵を見つめ、目で葵に尋ねた。
それを受け止め、葵は首を横に振る。
「……今は言えない」
「今は?」
葵の言葉を悠が繰り返す。
だが、葵はそれ以上何も言わなかった。
そんな葵の様子に呆れながら、悠は小鳥に視線を移す。
「理由も言えない人間をここに置けって?」
「……はい」
すみません、とうな垂れる小鳥の姿に堪りかねて、葵が立ち上がった。
「オレが邪魔だっていうなら外で野宿でもいい」
「無理だよ」
葵の提案をあっさりと否定して、悠は続ける。
「この寮に残っているのは僕達だけじゃないんだよ」
彼女らに見つかったら、どうするつもりなの、と言われ、彼は口を噤んだ。
そう言われてしまうと反論もできない。
自分が見つかれば、小鳥達に迷惑をかける事になる。
それでも、と唇を噛む彼を見て、悠は今日何度目になるかわからないため息を吐いた。
「好きにすれば」
「……え?」
葵が顔を上げ、悠を見れば、彼女は小さく笑ったようだった。
「好きにすればって言ったんだよ」
ただし、僕に迷惑かけないでね、と言う彼女に、小鳥は苦笑する。
彼女らしい言い方だなぁ、と思いつつ、葵に目をやると、彼もまた安堵して座り込んだ。
小鳥もまた彼の隣りに座り、小鳥は笑う。
「良かったね、あーちゃん」
「うん」
小さく頷き、葵は口元を緩める。
だが、そんな二人のやりとりに興味はないのか、悠が葵が買ってきた弁当を指差した。
「ねぇ、僕の分はあるの?」
そう言って、弁当に手を伸ばす悠に、小鳥と葵は顔を見合わせて、そして、笑った。