小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

永井十訣(新撰組三番隊長斎藤一一代記)

INDEX|37ページ/67ページ|

次のページ前のページ
 

 木又の所には、残りの五人が一斉に掛かって来たのである。先の鳥羽伏見の戦いで、多くの配下の獣達を失い、なおかつ今は冬なので、雀蜂達も使えず、残ったのは五匹の猿達だけなのであった。猿は野生の勘で、目に見えぬ五人の動きを捕らえ、その背中にしがみ付いたのである。使徒達の動きは、それで微妙ではあるが、木又の感じる所になったのであった。彼は心眼で持って彼らの動きをつかみ、彼らの内一人の首を得意の鞭で捕らえることに成功したのである。しかし残りの四人がさらに彼に接近しようとしていたので、彼はもう一つの手で山刀を抜きながら、
「無外真伝剣法三則、玄夜刀。」
と叫んだのであった。しかし今は真昼間である。彼の玄夜刀もまるで意味を無さないのかと思われたが、彼が刀を使徒の方へ向けると、昼間の太陽よりも強い光が彼らの目を射て、目暗ましとなったのだった。彼は素早く飛びあがり、その刀を投げたのである。山刀は過たず使徒の一人の眉間に突き刺さったが、その間に残りの二人は木又の身体に凶器を突き立てたのだった。使徒の背中に貼り着いていた猿達は、それを見て主人の敵を打つべく一斉に襲い掛かったのである。しかし、使徒達は一瞬にして彼らを主人と同じ運命を辿らせたのであった。
 木又が絶命して倒れるのと同時に、幾島の放った指弾が使徒の元に飛んで来たが、彼らはそれを短刀で器用に弾きながら、幾島の元へ迫ったのである。幾島があわや刺されるかと思った瞬間、その間に芳が立ち塞がり、彼らは芳の身体を貫いたのであった。彼らは芳の身体を刺し貫いて、そのまま幾島を襲おうと迫ったが、その時こうの双トンファーが、芳の身体越しに使徒達の頭を砕いたのである。その瞬間、最初に木又の鞭でやられたはずの使徒が息を吹き返し、仲間が二人倒れる前にその間から短刀を突き出し、こうの眉間に突き刺したのであった。こうは既に息絶える寸前であったが、息絶える前に両腕に指令を出し、こうを突き殺した使徒も、彼女のトンファーに両側から思いっきり挟まれ、柘榴のように頭が押し潰されたのである。こうは意識の無くなる前に、
『一(はじめ)、強く生きよ。平兵衛様、やっとお側に参れます。』
と呟き、ゆっくりと倒れたのであった。また最初に木又に眉間を突き刺された使徒も、倒れながら最期の力を振り絞って幾島に短刀を投げつけたのである。幾島は時尾を庇ってそれを背中で受け、血をそこから噴き出しながらその場に倒れたのだった。時尾は幾島を倒した使徒に向かって鶴嘴千本の長針を数本投げつけて絶命させると、急いで幾島の口に口移しに丸薬を流し込み、
「まだ助かる。」
と呟きながら彼女の背中に刺さった短刀を引き抜き、吹き出した血で真っ赤になってしまったのである。彼女はそれにも少しも怯まず、傷口に焼酎を掛けてから、透視能力で内臓が傷付けられていないか確かめると、神技のように速く、傷口を縫い合わせたのだった。そして治癒能力を両腕に込め、幾島に手を翳しながらこう叫んだのである。
「幾島様。時尾が必ずお命を助け、天璋院様からの書状を届けさせて差し上げます。」
 その一方山口次郎は、本殿から出てきた頭のナザレと向き合い、睨み合いを始めたのだった。またこうは、幾島に庇われるのを良しとせず、彼女の所を抜け出して、その隣にいるマリアを睨みつけていたのである。マリアはやそに対し、こう言い放ったのだ。彼女は一瞬にしてやそを永井十訣の頭目と見抜いたのである。
「ホホホホホ。オ前ラノ中ニ天通眼ノ力を持ッテオル者ガオッタロウ。ソノ力ヲ無効ニシテイタノハ我ノ祈リジャ。マンマト我等ノ罠ニハマリオッテ、オ生憎様ジャッタノ。」
 この時やそはマリアの言うことなど耳に入らず、密かにこう思っていたのだった。
『気功も使えず、攻撃的な体術さえこ奴よりも未熟と思われる私が、この頭も良く気功も体術も使えそうな女に勝てる筈が無い。お婆様が予言した私の最期とは、この時のことか。』
 だがそれも一瞬、隣にいた山口次郎がこう叫んだのである。
「無外真伝剣法全則。」
 その叫びに吊られたように、ナザレは他の使徒と同じ短刀を両手に持ち、山口の所に他の使徒よりも速く突っ込んできたのだった。彼はそれに合わせるかのように、必殺の片手左平突きを放ったのである。ナザレはそれを右腕のナイフで受け止め、ほぼ同時に左腕に持つ短刀を投げつけたのだった。あわやそれが山口の左胸に突き刺さろうとした瞬間、彼は右腕に持った脇差で飛んで来た短刀を払い落したのである。すると、最初に山口の放った左突きの刀が彼の手から離れて飛んでいき、くるりとUターンすると、ナザレに向かって飛んで来たのである。再びあわやそれが彼の頭の突き刺さろうとした瞬間、横にいたマリアがそれを叩き落としたのだった。その一瞬、やそから目をマリアが離したので、やそが「写し」の技を駆使して夫と同じ左片手突きを放ったのである。マリアはすんでの所でそれをかわし、その突かれた刀を目の前で見たのだった。それは刀でも何でも無く、細い竹であったのである。腕力の無いやそに、まして利き腕ではない左腕で、片手突きが放てるわけが無かったのだ。やそは夫の必殺技が左片手突きであることがたった今目の前で見せつけられたことを利用して、妻の自分も同じ技を放てば、それが一瞬本物であると相手に思い込ませることが可能なのではないか、と言う賭けに出たのである。まんまとそれに掛かったマリアが次に見たのは、やその利き腕から放たれた逆手の懐剣であった。彼女はそれを防ぐため、刃を血を流しながら左手の素手でつかんだのだった。するとその時、川井亀太郎の放った気泡が、彼女に向けて何発か放たれたのである。川井は利き腕を負傷していたが、気胞は引き金さえ引ければ放てるので、左手一本でそれを行ったのだった。マリアはそれを体術を使って大きくよけると、次に漢升の放った矢が飛んで来たのである。漢升もまた両肩を負傷していたが、ひょろひょろの矢でも射さえ出来れば、飛車刀は成立するのだった。漢升もまた彼女はそれをよけずに、一つ一つ短刀で粉砕していたが、その時せっかくつかんだやその懐剣のことを忘れていたのである。川井の気泡と漢升の矢の嵐をまるで縫うようにして、やそが逆手にした懐剣をマリアの喉元を斬り裂いたのであった。マリアは心の中で、『しまった。心残りなのはただ一つ。私は五人の力を封じる積りでいたが、実際には婆を除いた四人に過ぎなかった。一人の差が命取りとなったのだ。一人があんな年寄りとは思ってもいなかった。』と思いながら、その場に倒れたのである。
 それを見たやそは、急に気が抜けてその場に座り込み、幾島を懸命に介抱する時尾を不謹慎ながら睨みつけて、こう呟いたのだった。
「私が死ぬのはまだだった。一様はまだお前に渡さぬぞ。」