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永井十訣(新撰組三番隊長斎藤一一代記)

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とか何とか話している内に、伊庭とは箱根の山で別れ、山岡と益満休之助とは箱根の山を越えてから下田で別れたのである。幾島の駕籠を担いでの旅だったので、中々急げはしなかったのだが、二月九日にようやく中仙道の加納宿の二文字屋と云う宿に泊まることとなったのであった。まるで運命の糸に操られるかのように、加納藩士にして永井三十忍の一人で尚志の元に出向していた奥谷文吉、漢升、木又、勝蔵の京組も、その日程無く約束のその宿に合流したのである。奥谷の話によると、赤報隊は既に加納へ来ていて、つい先日まで城を包囲して、
「朝敵の永井尚志の家族を差し出せ。」
と談判していたのだが、我らが来た今日になって、急に退散して一人残らずいなくなってしまったので、地元の侠客で永井三十忍の一人水野弥太郎とその子分と共に、永井の奥方のために女手形を取りに行こう、と云うことなのであった。田中は早速この提案に乗り、彼らと共に三河の奥殿藩に行ってしまったのである。漢升、木又、勝蔵はこの宿に残ることとなり、江戸組は皆長旅で疲れ、まず幾島が風呂に入ると、何故か次の男共を入らせて女達は皆、帰って来た幾島に密かに話があると部屋の中央に呼び出したのであった。幾島が何ごとかとやそに問い質すと、珍しく顔を赤くしながら、彼女はこう答えたのである。
「お婆様。大変なことが判明しました。」
「何だ、深刻な顔をして。」
「今皆と話していて分かったことなのですが、私を除くおこう、お芳、時尾の三人とも、月のものが来てしまったのです。」
「まっまさか。」
「はい。三人ともこれの間は気功の技は使えません。また、私はそれが来ていないにも関わらず、気功の技が使えなくなってしまったのです。今鳥羽伏見の時出会った者どもと遭遇したら、まるで勝負になりません。幸い、赤報隊も既にここを通り過ぎた後とのこと。今の内に身体を万全になるまで、どこかに身を隠しましょう。」
「分かった。そんなものはわしにはもう関係ないもの故、うっかりしておった。それにしても私の天通眼の力はどうしたのか。少しもそれを察知できなんだ。奴らの気配も感じられぬし、奴らが何らかの力を持ってわしの力も封じておるのやもしれぬ。とにかく今すぐにでも男どもにはわしの方から伝え、明日の朝、早くに宿を発とう。」
 何故か赤報隊の気配も無いまま、一行は明日の朝まだ暗い内に起き、それぞれ戦闘服に着替えたのであった。黒い伊賀者(忍者)装束に黒皮の上着をつけ、頭には鍔付き野球帽のような兜に黒布で顔を隠したものを被り、山口次郎だけは例によって、時尾の鎧と手甲足甲を一人身に付けていたのである。そして宿を発って身を隠そうと加納天満宮の敷地までやってくると、その間も無く突然全員が強い気配に襲われ、やそがこう叫んだのであった。
「いかん。囲まれている。皆、お婆様を四方に囲むのだ。まず一番内側は私と芳とおこうさんと時尾。その外側に川井亀太郎殿と漢升が背中合わせに構え、その間に山口次郎様と木又が挟まるのだ。陣形が整ったら、すぐにお婆様は、無外流奥義八則玉簾不断を用い、全員を囲ってお守り下さい。勝蔵は馬故、手薄な方に加勢せよ。すぐ来るぞ。」
 やその言葉通りに全員が配置を変え、山口次郎が両刀を抜いて左右両方に一本ずつ持って構えると同時に、幾島はこう唱えたのである。
「無外真伝剣法八則、玉簾不断。」
 その途端、神社の四方から黒い影が多数現れ、神社の扉が音を立てて開き、中から黙示録の十二使徒の頭ナザレと副頭目のマリアが現れたのであった。まず勝蔵は愛馬黒駒を駆って、十二使徒を分散させるため、神社の入り口に走ったのである。すると、入り口の鳥居の上には、まるで鳥のように二人の使徒が留まっており、勝蔵と目が合う前に、鳥居の上部を蹴って彼に襲い掛かったのであった。十二使徒の技は、まず自らの使う筋肉に気功を集中させ、常人では有り得ぬ速さで動くことであったのである。勝蔵は、
「無外真伝剣法九則、相無剣。」
と叫びながら、素早く槍を一人に突き出したが、使徒はすんでの所で突きだされる槍の穂先をかわし、そのまま彼の顔面目指して突っ込んで来て、相無剣によって硬化した彼の体の中で唯一の弱点である両目に向かって短剣を突き刺したのであった。勝蔵はよけられた槍を素早く手放し、両手で使徒二人の首を捕らえたのだが、両目を貫かれ、二人を締め殺す前に、馬上で息絶えてしまったのである。並の者なら殺(や)られていたが、鍛えられた彼らは、死んだ勝蔵から解き放たれて下に落ち、咳き込むだけで助かったのだった。しかし、彼らが助かったと油断したその瞬間、勝蔵の愛馬黒駒が、主人の敵(かたき)を取るため、すぐ自分の後ろ脚の近くに落ちた使徒二人の頭を、思いっ切り蹴飛ばしたのである。さすがの使徒も、後頭部に巨馬の一撃を受け、頭が柘榴のように割れて息絶えたのだった。
 その頃同時に、初参戦の川井亀太郎は得物の三連発の火縄銃で、迫りくる三人の使徒にこう叫びながら三連射したのである。
「無外真伝剣法初則、獅子王剣。」
 三人の使徒は、膨れ上がった必殺の三連発の獅子王剣の弾丸を大きくよけながら、川井の懐に飛び込んできたのだった。無論火縄銃は、それ以上連発出来ないことを知っての行動なのである。しかし、あわや使徒三人に川井が切り刻まれようとした瞬間、玉も込めない川井の火縄銃から、川井得意の気泡の獅子王剣の気が込められた物が飛び出し、三人はそれぞれふっ飛ばされたのであった。川合は彼らが息を止めるまで気泡を撃ち続けたのだが、使徒三人もさる者、息絶える前に手にしていた短刀を川井に投げつけたのである。川井は、玉簾不断によって遅くなった三つの短刀を、二つまでは撃つのを止めて火縄銃で弾いたが、三つ目は弾き損ない、短刀は彼の利き腕に深々と刺さってしまったのだった。
 その丁度背面にいた漢升には、使徒二人が襲いかかって来ていたのである。弓を構える彼には、鉄砲と違って二人で十分と判断したのだろう。口の利けない漢升は、
『無外真伝剣法二則、翻車刀。』
と心の中で叫びながら、弓を次々と射たのである。翻車刀の弓がよけてもまたこちらに向かってくることを熟知している使徒達は、それを片手で鷲掴みにして、漢升に迫ったのだった。しかし彼に短刀が届く前に、第二の矢が飛んで来たので、手に取っていた第一の矢を離して第二の矢も掴み、いよいよ漢升の喉元を斬り裂こうとした瞬間、地に落ちたはずの第一の矢が、まるで生き物のように再び使徒に向かって飛んできて、二人の後頭部に突き刺さり、矢はまるで錐のように回転して、彼らの頭を貫通したのである。それでも二人の使徒は、漢升の両肩にその刃を辛うじて浅く突き刺したのであった。