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永井十訣(新撰組三番隊長斎藤一一代記)

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とその時、やそは戦っている全員に念波で知らせたのだった。傍らにいた幾島も、その指令に相槌を打ったのである。
「この敵は危険じゃ。その正体がはっきりするまで、戦わぬ方がえぇじゃろう。しかし、この世にわしらの他にもこのような力を持つ者がおるとは、思ってもみなかった。じゃが考えてみればそれは当然なことで、わしらのような存在が、他にいないなどと考える方が不自然だったのかもしれん。」
 こうして永井十訣は、新撰組と共にこの場を撤退したのだった。
 その後戦局は徐々に不利なものとなり、ついに錦の御旗が出るに及んで、勤王の志の高い会津や桑名の兵は総崩れとなり、全軍大阪へと撤退することとなってしまったのである。新撰組も、六番隊長井上源三郎らが討ち死にしてしまったのだった。大阪では徳川慶喜が徹底抗戦を全兵に宣言した一月六日のその夜、その慶喜が松平容保ら側近を引き連れて軍艦開陽丸で江戸に退却してしまったのである。お芳も、慶喜と共に撤退したのだが、その時やそ、幾島、おこう、時尾もまた共に旅立ったのだった。これは留守居役にさせられた永井主水正と相談したところ、新撰組と共に山口次郎もまた撤退することとなったからである。木又と勝蔵と漢升は、永井の手助けと警護をするために大阪城に残ったのだった。
 戦いに勝利した薩長と公家の面々、大久保利通と岩倉具視とその策士玉松操、綾小路俊実、相楽総三、伊東甲子太郎の弟の鈴木三樹三郎が正月七日、御所の一室で何事か密談していたのである。そこへ突然、伊藤俊輔と井上聞(もん)多(た)の二人が正座して頭を下げて現れたのだった。彼らの背後には、何故かこちらは立ったまま、頭から黒いフードを身に付けた者が二人、頭だけは下げていたのである。それを見て、大久保が声を掛けたのだった。
「これはこれは、伊藤君と井上君のお二人ではないか。木戸君や大村君はどうしたのかね。もう戦は終わってしまったよ。」
 伊藤と井上の二人は再び頭を上げ、井上がまず口を切ったのである。
「本日は、木戸さんや大村さんの名代として参りました。実は近日、赤報隊なる後方撹乱隊を結成すると聞き及び、それに参加させたい者を連れて来たのです。」
 井上の口上を聞き、その背後にいる二人が、無言のまま再び頭を下げたのだった。そして赤報隊の隊長となる予定の相楽総三が、こう答えたのである。
「ほう、お二人は早耳でござるな。そこに控えている者がそうか? 一体何者なのだ。」
 この相楽の問に対し、今度は伊藤が答えたのだった。
「はい、彼らは亡き坂本君から紹介して頂いたグラバーの手の者にて、メリケン国の内戦で活躍していた勇士にございます。また、この度の四境戦争(第二次長州征伐)や鳥羽伏見の戦においても、目の覚めるような奮闘振りを見せました。後ろに控えし二人は、名をナザレとマリアと申し、黙示録の十二使徒と申す部隊を率いる者達にございます。幕府の新撰組は、永井十訣と云う無敵の部隊が密かに守っているとか。この度大村さんが、ようやく彼らを打ち破る手立てを思いつき、使徒達を派遣されたのです。赤報隊の任務がつつがなく遂行出来ますよう、彼らを加えたが宜しいかと存じます。」 
 その話を聞き、岩倉具視の策士玉松操と云う老人が、こう口を挟んできたのである。
「ほう、かつて聞いたことのあるあの永井十訣を打ち破る手立てがあると申すか。わしも以前その話を聞いた時、まだ村田と名乗っていた頃の大村君に頼まれて、その手立てを考えたことがあるのだが、どうしても思いつかなかったのだ。どうか後学のため、それはどのような方法なのか、聞かせてはくれぬか。」
 すると大久保も、こう付け加えたのであった。
「そうだな、私もそれは考えてみたのだが、どうしても思いつかなかった。大村君の推薦だからと言って、その手立てがどういうものかをも聞かず、そのまま黙って赤報隊に加えると云うわけにはいかぬな。さあ、教えてくれ。」
 するといかにも口の軽そうな井上が、待ってましたとばかりにそれを口にしたのである。
「そんなに聞きたいのなら仕方ありませぬ。お聞き及びとは存じますが、彼らは去る四境戦争の折、圧倒的不利を覆したほどの剛の者にございますが、それでも永井十訣に絶対勝てるとは申せません。これは一度彼らが直接奴らと一戦交えてみて出た結論なのですが、要するに彼らの内半分は女子(おなご)であると云うことなのです。」
と井上がここで一息入れたので、気の短い岩倉は、思わずこう尋ねたのであった。
「女子じゃから何じゃと言うのじゃ。早く申さぬか。」
 井上はそう言われ、傷だらけの顔で不気味に笑いながら話を続けようとしたのである。するとその前に、今まで黙っていた黒いフードのの者の一人が、片言の日本語で語り始めたのだった。
「皆サンハ御存知デショウカ。奴等ハ我等ト同ジ気功遣イナノデス。気功ハ泥酔シテイテモ使エナクナリマスガ、女子ノ場合、月二一度、ソレガツカエヌ時ガアルノデス。」
「月に一度?」
と言って岩倉が身を乗り出すと、マリアはこう答えたのである。
「コレハ元々女デアリ、同ジ気功遣イデモアル私ダカラコソ気付イタコトナノデスガ、女子ナラ誰デモ月二一度血ヲ流シ、気功ガ使エヌ時ガアルノデゴザイマス。私ガ占ッタ所、奴ラ五人ガソレガ重ナルノハ、今年ノ二月十日前後トデマシタ。ドウカコノ日ノ前後マデニ奴ラの本拠地加納マデ我等ヲオ連レ下サイ。我等ハ、ソコデ奴ラヲ待チ伏セシマス。赤報隊ガソレマデ各地デ暴レマワレバ、必ズヤ彼ラハ参リマショウ。何故ナラ大村様ノ調ベニヨレバ、奴等ノ頭永井尚志は、ソノ家族ヲ加納ニ疎開サセテイルトノコトラシイノデス。マタ赤報隊ノ中二、敵同士ノ鈴木三樹三郎達御陵衛士ノ皆様方ガ加ワッテイルト知レバ、尚更デアリマショウ。マタ大村様ノ話デハ、奴等ノ中ニ天通眼ノ者モイルトノコト。ソレデハセッカクノ企テモ、先ニ知レテシマウカモシレマセン。デモゴ安心下サイ。私ノ力ヲ込メタ祈リニヨッテ、ソノ力モ封ジテマショウ。サスレバ、コノ計画ハ完璧トナリマスル。」
 井上は、自分がしたかった話を途中で取られ、不機嫌そうにそっぽを向いたが、マリアの話を聞き、玉松操を始めとする殆どの者は、感心して大きく頷き、相楽は最期にこう答えたのであった。
「これで決まりだな。主ら十二使徒は、赤報隊四番隊として、吾らに付いて参れ。結成式は、今月の八日近江国の金剛輪寺において、ここにいる綾小路俊実殿を盟主にして行われる。もう時間は無いぞ。綾小路俊実殿、二番隊長の三樹三郎殿と共に詳細を詰め、仲間にもすぐにお引き合わせ致しましょう。」
 第九場 再び江戸