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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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(降る気配が、ない・・・雨の匂いも、空気の重みも、ない)

これまでの経験からいえば、異例の事態であるといえる。少年が不安なのは、渇いていく己の身体ではなく、雨が降らないことで心労を重ねている妹のことだった。

舞いを捧げ、祈りを捧げる妹。少年のように飢えや渇きに苦しむことはないが、それでも毎日続けば消耗する。

(それに・・・わたしのことも)

兄のことを心配しているだろう、間違いなく。自分が妹の苦しみの一つなのだと考えると胸が痛い。だが同時に嬉しいのだ。こんな自分を兄としたい、気にかけてくれていることが。

(わたしは一つもつらくはないぞ)

心の中で妹に語りかける。

(いつもおまえを思っているからな・・・)

離れていても、心は結ばれている。だからこうして、過酷な役目にも耐えることが出来る。

(しかし・・・)

祭壇のそばに立つ見張りの衛士や、池を信仰してきた近隣の村人たちの飢餓と疲労は限界を迎えている。

(神よ)

少年は祈る。渇いて痩せ、骨ばった枯れ木のような手を握り締めて。

(どうか雨を。御慈悲を)

地獄のような旱魃が、尊い命を奪いきってしまうその前に、どうか。