月に吼えるもの 神末家綺談6
夕方の六時を回った頃、絢世(あやせ)が屋敷へやってきた。
「これ母からです。伊吹さんがいらしていると聞きました。今夜はお手伝いさんもいないから、みなさんであがってくださいって」
「ああ、ありがとう・・・」
いい匂いのする紙袋を受け取ったはいいが、これをどうしてよいのか紫暮はわからない。棒のように突っ立ったままの紫暮に、訝しげな視線を向けてくる絢世。
「紫暮さん?どうかされましたか?」
「ああ、うん・・・」
思った以上に、自分も疲労しているのだと気づかされる。地下書庫から戻って、倒れた伊吹を床に寝かせてから、絢世が訪ねてくる今まで、自分が何をしていたかの記憶すらない。
「なにか・・・あったんですか?伊吹さんは?」
「彼は、奥の間で休んでいる」
地価書庫で瑞に導かれた伊吹が見つけたのは、罪の記憶だった。
(あんな事実・・・俺たちはまだしも、直結の血を引く伊吹くんが耐えられるはずもない)
鏡月記と名づけられたそれには、一族の始まり・・・雨を降らす役目を担う兄妹の記録が記されていた。なぜ神末一族に人ならざる力が宿るのか、なぜ瑞は式神として調伏されたのか・・・。
鏡月記と、それを読んだ穂積の日記により、伊吹の知りたがっていた事実がすべて明るみに出た。しかし、彼の受けたダメージは大きかった。当然だろうと思う。瑞を守るために禁断の領域へ踏み出したはずなのに、そこで待っていたのは・・・。
作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白